宵の明星、星のごとく【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0112】


レイ・ブラッドベリさんが、「クリエイティブになるには、三種の読書を1000日続けよ」と仰っていたということで、短い物語(短編小説)、詩・俳句・短歌・歌詞、論考と三種類のテキストを毎日読みます。そして、何を読んで何を感じたかを、備忘録的に記録しています。

【短編小説】二十人目ルール/井上荒野 ○
これだという人を見つけ、二十人目に声をかけるという「二十日目ルー儿」を語る老人。今日、23才の青年から、そのルールに従い声をかけられたと話すも、それはどうやらいつもの妄想のようだ。この虚言と本人の家庭での居心地の悪さがないまぜになり、ストーリーは進む。面白いと感じる半面、結局、何を伝えたかったのだろうと首をひねった読後感だった。

【詩・俳句・短歌・歌詞】夕づつを見て/佐藤春夫 ◎
夕づつとは、夕方、西の空に見える金星。宵の明星だ。調べてみて分かった。6行のつぶやきのような詩である。私はあまり宵の明星を見てきたわけではないが、そのつぶやきのような口数の少ない言葉によって、自然と目の前に現れ出てきた。ある意味で、言葉のマジックにかかったのだろう。

【論考】触媒/外山滋比古 ○
何か触媒するものがあれば、人間の創造性は高まるという主張。先の「醗酵」や「寝させる」などと、近しい考え方だと思う。そして、組み合わせの要素が変わったり、新しいアイデアが加わることで、全く別の思考や企画が出来上がることは、よくあることではないか。ただ、仮に方法や手順は分かっても、実際にアウトプットはなかなかできないというのが実情であろう。


ドーキンス【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#086】


【3月26日】ドーキンス:1941.3.26~

純粋で、私欲のない利他主義は、自然界には安住の地のない、そして世界の全史を通じてかつて存在したためしのないもののである。しかし私たちは、それを計画的に育成し、教育する方法を論じることさえできるのだ。われわれは遺伝子機械として組立てられ、ミーム機械として教化されてきた。しかしわれわれには、これらの創造者にはむかう力がある。この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである。

『利己的な遺伝子』日高敏隆ほか訳、紀伊國屋書店、1991年

【アタクシ的メモ】
生物の遺伝子は、すべて利己的な行動を促し、人間だけが利他的に振る舞える可能性があるということか。それは、人間だけが他者性を認識し、またそれを俯瞰した客観的な視線を持っていることだろう。


20年で人は大きく変わる【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0111】


レイ・ブラッドベリさんが、「クリエイティブになるには、三種の読書を1000日続けよ」と仰っていたということで、短い物語(短編小説)、詩・俳句・短歌・歌詞、論考と三種類のテキストを毎日読みます。そして、何を読んで何を感じたかを、備忘録的に記録しています。

【短編小説】if/伊坂幸太郎 ○
ifという題名と、AとBとに分けられていることから、AかBかと、2つのストーリーが並べられていると思った。しかし読んでみると、Aに似たBという20年後の物語であった。実験的な作品だとは思うが、自分自身としては、あまり好きにはなれなかった。20年という歳月は、人を大きく変えると思うからだ。

【詩・俳句・短歌・歌詞】水の星/茨木のり子 ○
水の星とは、特にひねりもなく地球のことである。俯瞰して見ることで、いつも自分たちが感じていない地球を理解できるのかもしれない。ただ、表現が緻密ではないせいか、何だかとらえようがない感じである。抽象的過ぎるので、読み手としてはやや迷子になってしまった。

【論考】エディターシップ/外山滋比古 ○
一言で言ってしまうと、編集は大事だということ。自ら文章を書くと、確かに自発性は生まれるだろう。ただ、ここでは組み合わせの妙で、さらに価値が高まると説いている。私は長く、記事コンテとツの編集をやってきたが、そうした経験上でも、編集の力を信じている。


島崎藤村【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#085】


【3月25日】島崎藤村:1872.2.17~1943.8.22

愛憎の念を壮んにしたい。愛することも足りなかった。憎むことも足りなかった。頑執し盲排することは湧き上がって来るような壮んな愛憎の念からではない。あまり物事に淡泊では、生活の豊富に成り得ようがない。
長く航海を続けて陸地に恋い焦がれるものは、往々にして土を接吻するという。そこまで愛憎の念を持って行きたい。(「愛憎の念」)

『藤村随筆集』十川信介編、岩波文庫、1989年

【アタクシ的メモ】
それが正しいのか、正しくないのか置いておいて、極点に到達することが愛憎の念なのだろうか。愛憎の念があれば、自然に死と向き合えるということであろうか。


最も大切なのは「自分を愛すること」【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0110】


レイ・ブラッドベリさんが、「クリエイティブになるには、三種の読書を1000日続けよ」と仰っていたということで、短い物語(短編小説)、詩・俳句・短歌・歌詞、論考と三種類のテキストを毎日読みます。そして、何を読んで何を感じたかを、備忘録的に記録しています。

【短編小説】Across The Border/阿部和重 △
理不尽に残忍な展開や描写が続き、読むのが苦痛だった。しかも、その残虐さにりアリティーが乏しく、何とも言葉だけで、人の息づかいのようなものを感じさせず、そうした点でも気分が悪くなった。作者の作品はほとんど読んでいないが、ある種偽悪的な文章は、彼らしさなのだろうか。

【詩・俳句・短歌・歌詞】奈々子に/吉野弘 ◎
親が子に語りかける、とてもあたたかい詩である。親が子に言い聞かせるのではなく、この詩なら、きっと子どもたちも、聞き入れてくれるであろう。最も重視するのは、「自分を愛すること」。誰でもできるようで、勝ち取るのも育むのも実は難しい。親は待つしかないのだろう。

【論考】カクテル/外山滋比古 ○
「ひとりでは多すぎる。ひとりでは、すべてを奪ってしまう」ということのようだ。論文などを書く場合もテーマを一つにしてしまうと、それにこだわってしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまうことがある。また、論文をまとめる際も、他の説をすべて否定するのではなく、融合することをすすめている。多様性に近い印象があった。


ラスキ【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#084】


【3月24日】ラスキ:1893.6.30~1950.3.24

一口にいえば、キリスト教が解決しようとした問題は、一方には貧民における貧困の存在と、他方には富者の富を侵犯から防衛する国家権力と、この二つをいかに和解させるかということにあった。そしてその問題を、一切露骨に本質だけをいえば、彼等は、貧民たちに、富者には困難な来世の救済を約束することによって、解決したのであった。

『信仰・理性・文明』中野好夫訳、岩波書店、1951年

【アタクシ的メモ】
貧しい人たちに対して、来世はきっと救われると説くことで、現状を納得してもらい、貧困と富の分断を継続させたということだろうか。それであれば、非常に皮肉な物言いであるし、やはりニーチェによるキリスト教批判を思い起こす。


不意にこの芝生の上に立っていた【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0109】


レイ・ブラッドベリさんが、「クリエイティブになるには、三種の読書を1000日続けよ」と仰っていたということで、短い物語(短編小説)、詩・俳句・短歌・歌詞、論考と三種類のテキストを毎日読みます。そして、何を読んで何を感じたかを、備忘録的に記録しています。

【短編小説】清水課長の二重線/朝井リョウ ○
若手社員とベテラン社員の対立的なストーリーなのかと思っていたら、今はしっかり者の社員も、若いころは経験不足でちゃんと苦労していたという話だった。当たり前だが、人は変わるんだなと改めて認識したし、同時に今の存在は、過去によって形づくられるのだとも思った。文体は嫌いではないが、少し苦手かもしれない。

【詩・俳句・短歌・歌詞】芝生/谷川俊太郎 ○
前回の「かなしみ」同様、理解できたという感じではなかったが、今回は人が生きること、人間の生命について語った詩のように思う。「不意にこの芝生の上に立っていた」というのは、人は自分の意志とは関係なく生まれ出てくることを書いているのだろうか。芝生はグリーンなので、地球上の緑、自然のたとえなのかもしれない。

【論考】寝させる/外山滋比古 ○
夜の頭より朝の頭の方が信頼できることもあり、思考を生み出すにば“寝させる”ことが必須だという。一般の感覚で言っても、その通りだと思ったが、論の進め方が、想像以上に科学的ではないのに少し驚いた。この文章が書かれたのが約40年前だから、社会全体が進歩成熱した証なのかもしれないと思った。


イエス【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#083】


【3月23日】イエス:前4頃~後28

さて、第六刻から地のすべてを闇が襲い、第九刻に及んだ。また、第九刻頃に、イエスは大声を上げて叫び、言った、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」。これは、わが神よ、わが神よ、なぜ私をお見棄てになったのか、という意味である。そこで、そこに立っていた者のうち何人かが、これを聞いて言い出した、「こいつはエリヤを呼んでいるぞ」。すると、すぐさま彼らの一人が走って行き、そして海綿をとって酢で満たした後、葦の先につけ、彼に飲まそうとした。しかしほかの者たちが言った、「やめろ。エリヤがやって来てこいつを救うかどうか、見てやることにしよう」。しかしイエスは、再び大声で叫びながら、息を引き取った。(『マタイによる福音書』)

『新約聖書I マルコによる福音書 マタイによる福音書』佐藤研訳、岩波書店、1995年

【アタクシ的メモ】
イエスが亡くなる場面。処刑されたのだから、ある意味当たり前なのかもしれないが、非常に残忍に扱われている。聖書の描写だからかもしれないが、亡くなる前に大声を出す姿に、少し違和感を感じた。


バレンタインは苦い思い出ばかり【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0108】


レイ・ブラッドベリさんが、「クリエイティブになるには、三種の読書を1000日続けよ」と仰っていたということで、短い物語(短編小説)、詩・俳句・短歌・歌詞、論考と三種類のテキストを毎日読みます。そして、何を読んで何を感じたかを、備忘録的に記録しています。

【短編小説】初バレンタイン/角田光代 ○
どうして中原千絵子は、チョコレートを買わないまま、バレンタインを迎えてしまったのか。なぜ田宮滋は、20万円近い指輪を買ったのか。その辺りの行動の理由が分からなかったのので、あまり共感できなかった。また、プレゼントした本も、すごいとしか書かれておらず、このストーリーの説得力アップにつながっていないと感じた。

【詩・俳句・短歌・歌詞】かなしみ/谷川俊太郎 ○
何度も読んだが、正直、解釈できるほどの理解に至らなかった。何か大きなことを書いているのだろうと思うものの、比喩的な表現も具体的なイメージができなかった。少し検索してみると、少年期の孤独感を詠んだようだ。そういわれれば、そうかもしれないと思うものの、確信にはたどりつけないままでいる。

【論考】醗酵/外山滋比古 ○
卒論などの研究テーマは、自分自身が感じた素材に、異質なアイデアやヒントをかけ合わせることで、新しいものが生まれるという。その時間は時々で変わるが、筆者はそれを醗酵と表現する。これは企画を立てるような時に、AとBが自然と自分の中で融合して、Cになっているのと似ているかもしれない。


丸山真男【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#082】


【3月22日】丸山真男:1914.3.22~1996.8.15

自由は置き物のようにそこにあるのでなく、現実の行使によってだけ守られる、いいかえれば日々自由になろうとすることによって、はじめて自由でありうるということなのです。その意味では近代社会の自由とか権利とかいうものは、どうやら世界の惰性を好む者、毎日の生活さえ安全に過ごせたら、物事の判断などはひとにあずけてもいいと思っている人、あるいはアームチェアから立ち上がるよりもそれに深々とよりかかっていたい気性の持主などにとっては、はなはだもって荷厄介なしろ物だといえましょう。(「「である」ことと「する」こと」)

『日本の思想』岩波新書、1961年

【アタクシ的メモ】
自由だけでなくほとんどの事柄、状態は、元から存在しているのではなく、人々の行動によって生成されるのだと思う。