D.H.ロレンス【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#062】


【3月2日】D.H.ロレンス:1885.9.11~1930.3.2

翌日彼女は森へ出かけた。曇った、静かな午後で、暗緑色の山藍が榛の矮林の下に拡がっていた。すべての樹木は音も立てずに芽を開こうとつとめていた。巨大な槲の木の樹液の、ものすごい昂まり。上へ上へと騰がって芽の先まで届き、そこで血のような赤銅色の、小さな焔かとも思われる若葉となって開こうとする力を、彼女は今日は自分のからだの中に感じた。それは上へ上へと脹れあがり、空に拡がる潮のようなものだった。

『完訳 チャタレイ夫人の恋人』伊藤整・伊藤礼訳、新潮文庫、1996年

【アタクシ的メモ】
森の情景描写かと思わせていたら、昂まりを「彼女のからだの中」に移行(スライド)させ、空に拡がる潮に例えるのだった。巧みな展開に感じる。