李賀【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#094】


【4月3日】李賀:791~817

長安に男児有り
二十にして 心已に朽ちたり
楞伽 案前に堆く
楚辞 肘後に繋かる
人生 窮拙有り
日暮 聊か酒を飲む
祇だ今 道已に塞がる
何ぞ必ずしも白首を須たん

長安の一人の男。
二十にして心はすでに朽ちた。
楞伽経を机の前に積み上げ、
楚辞を手元に置く。
人生、行き詰まることがあり、
日暮れてまずは酒でもあおる。
今この時、道はもう先がない。
白髪になる時を待つこともないのだ。(「陳商に贈る」)

『新編 中国名詩選』(下)川合康三訳、岩波文庫、2015年

【アタクシ的メモ】
20歳で心が朽ちるというのが、なかなか想像できなかったが、李賀本人のことを詠ったようだ。若くして天才と呼ばれ、能力も高かったが、科挙の受験を拒まれ出世の道を断たれ、失意のまま27歳で亡くなったという。


アンデルセン【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#093】


【4月2日】アンデルセン:1805.4.2~1875.8.4

そのとき、貧しい家の子供たちのうちでいちばん下の子がはいってきました。それは小さい女の子でした。その子は兄さんと姉さんの首にかじりつきました。なにかとても大事なことを話しにきたのです。でもそれは、ないしょで言わなければならないことでした。「あたしたち、今夜ね――なんだと思う?――あたしたち、今夜ね。あたたかいジャガイモがたべられるのよ!」
そして女の子の顔は幸福に光りかがやきました。ろうそくがその顔をまともに照らしました。(「ろうそく」)

『完訳 アンデルセン童話集』(7)、大畑末吉訳、岩波文庫、1984年

【アタクシ的メモ】
あたたかいジャガイモを食べられことが、幸せにつながるというのが、今の日本と状況が違いすぎる。私自身も過去に、多少食べ物に困ったこともあったが、そんなのたかが知れているので、食事ができることの有難さが、身に染みていないかもしれない。


チェ・ゲバラ【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#092】


【4月1日】チェ・ゲバラ:1928.6.14~1967.10.9

僕はこの地に、僕を息子のように受け入れてくれた国民を残し、僕はこの地に、僕自身の一部を残して行く。僕は、新しい戦場に、君が僕に吹き込んでくれた信念と、わが国民の革命魂と、もっとも神聖な革命家としての義務を果たすための良心をたずさえて出かける。帝国主義のあるところ、いたるところで戦う。それが僕の決意を固め、僕の苦痛を柔らげよう。(「フィデル・カストロ宛書簡、1965年4月1日」

『ゲバラ 革命の回想』真木嘉徳訳、筑摩書房、1971年

【アタクシ的メモ】
革命魂がチェ・ゲバラの原動力であり、行為することが意志を強め、ある意味でストレス解消にもつながるのだろう。


ニュートン【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#091】


【3月30日】ニュートン:1642.12.25~1727.3.31

世間の人びとの目に私という人間がどう映るかはわからない。しかし、私自身には、目の前に真理の大海が未知のまま広がっているというのに、私ときたらただ浜辺で遊び戯れ、時おり普通のものよりも滑らかな小石やきれいな貝殻を見つけては喜ぶ子供のようなものだった、としか思えない。

ブルースター『ニュートン伝』1855年(『バートレット引用句辞典』所収、編者訳出

【アタクシ的メモ】
無垢なる知的欲求が、ニュートンの原動力になっていたのだろうか。万有引力の発見は偉大な業績と思うものの、すごすぎて天才の嫌味に聞こえなくもない。


ヴェルレーヌ【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#090】


【3月30日】ヴェルレーヌ:1844.3.30~1896.1.8

秋の日の
ヸヴィオロンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
ここかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。(「落葉」)

上田敏『海潮音』(『上田敏全訳詩集』山内義雄他編、岩波文庫、1962年より

【アタクシ的メモ】
ネットで調べてみると、訳者が音数を意識しながら翻訳していると評価しているものがあった。確かに、とても悲しい詩であるが、リズミカルである。


ディドロ【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#089】


【3月29日】ディドロ:1713.10.5~1784.7.31

ラブレーの修道士の知恵は、自分の安泰のためにも、ほかの人々の安泰のためにも、本当の知恵ですよ。曲がりなりにも自分の義務を果たし、いつも僧院長さんのことをよく言い、世界を勝手気儘に運行させておくという奴です。それで大部分の者が満足するんだから、世界は丸く納まるわけでさ。わしがもし歴史を知っていたら、悪はいつでも誰か天才の手をへてこの地上にやって来たということを、あんたに証明して見せるだがなあ。

『ラモーの甥』本田喜代治・平岡昇訳、岩波文庫、1964年

【アタクシ的メモ】
何度も読んだが、真意は理解できなかった。賢く優秀な人ほど悪さを起こし、無為な人の方が安泰や満足をもたらすといことか。


ゴーリキー【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#088】


【3月28日】ゴーリキー:1868.3.28~1936.6.18

幼年のころ、わたしはみずから自分を蜂の巣のように想像した。さまざまのなんでもない、ごく平凡な人びとが、生活についての自分の知識や思考の蜜を蜜蜂のようにそこへ運んできては、だれでもできるものでわたしの精神を惜しげもなく富ましてくれるのだ。しばしばこの蜜はきたなく、またにがいことがあったけれども、あらゆる知識は――やっぱり蜜であった。

『幼年時代』湯浅芳子訳、岩波文庫、1968年

【アタクシ的メモ】
ゴーリキー自身の知的好奇心について、書かれているのであろうか。現在のように情報過多の時代ではないと思うので、きたなく、にがい知識もきっと喜んで受け取っていたのではないか。


大伴家持【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#087】


【3月27日】大伴家持:717頃~785.8.28

春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ少女

春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも

うらうらに照れる春日にひばりあがり情悲しも独りしおもへば

『万葉集』(4)(『日本古典文学大系』7、高木市之助ほか校注、岩波書店、1962年

【アタクシ的メモ】
短歌は苦手だし、古文も苦手。なので、現代語訳なども参照したが、どれも一瞬の情景や心情を描いていて、とても美しいと感じた。特に「春の野に霞たなびき」は、語感も含め美しく、じんわりとした気持ちになる。


ドーキンス【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#086】


【3月26日】ドーキンス:1941.3.26~

純粋で、私欲のない利他主義は、自然界には安住の地のない、そして世界の全史を通じてかつて存在したためしのないもののである。しかし私たちは、それを計画的に育成し、教育する方法を論じることさえできるのだ。われわれは遺伝子機械として組立てられ、ミーム機械として教化されてきた。しかしわれわれには、これらの創造者にはむかう力がある。この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである。

『利己的な遺伝子』日高敏隆ほか訳、紀伊國屋書店、1991年

【アタクシ的メモ】
生物の遺伝子は、すべて利己的な行動を促し、人間だけが利他的に振る舞える可能性があるということか。それは、人間だけが他者性を認識し、またそれを俯瞰した客観的な視線を持っていることだろう。


島崎藤村【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#085】


【3月25日】島崎藤村:1872.2.17~1943.8.22

愛憎の念を壮んにしたい。愛することも足りなかった。憎むことも足りなかった。頑執し盲排することは湧き上がって来るような壮んな愛憎の念からではない。あまり物事に淡泊では、生活の豊富に成り得ようがない。
長く航海を続けて陸地に恋い焦がれるものは、往々にして土を接吻するという。そこまで愛憎の念を持って行きたい。(「愛憎の念」)

『藤村随筆集』十川信介編、岩波文庫、1989年

【アタクシ的メモ】
それが正しいのか、正しくないのか置いておいて、極点に到達することが愛憎の念なのだろうか。愛憎の念があれば、自然に死と向き合えるということであろうか。