永井荷風【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#069】


【3月9日】永井荷風:1879.12.3~1959.4.30

余は五、六歩横町に進入りしが洋人の家の樫の木と余が庭の椎の大木炎〻として燃上り黒烟風に渦巻き吹きつけ来るに辟易し、近づきて家屋の焼け倒るるを見定ること能はず。唯火焔の更に一段烈しく空に上るを見たるのみ。これ偏奇館楼上少からぬ蔵書の一時に燃るがためと知られたり。(1945年3月9日)

『摘録 断腸亭日乗』(下)、磯田光一編、岩波文庫、1987年

【アタクシ的メモ】
断腸亭とは荷風の別号で、日乗とは日記のこと。これは戦時中で、どうやら空襲にあったようだ。