その瞬間、ここに存在すること【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0053】


【短編小説】ひとつの目標/星新一
何かに追われるように人を探す。人を探し出すことで、自らが救われるようだ。謎めいた人探しにつき合っていると、命をかけた大がかりな鬼ごっこだったことが明かされる。何だそりゃーというのが最初の感想。成功すれば特権階級になれるようだが、それでも一年かけて人を探したり、逃げたりするだろうか。

【詩・俳句・短歌・歌詞】ぼくが ここに/まど・みちお
その瞬間、ここに存在しているのは唯一であると、以前気づいて、ちょっと驚いたことがあった。この詩はその驚きを、「だいじにみもられているのだ」「なににもましてすばらしいこと」としている。存在するだけですばらしいかどうかは置いておいても、存在者からすると守られていると思うべきだろう。

【論考】母なる自然について/森本哲郎
『遠野物語』に興味は持てたが、自然と都会の対立構造や「母なる自然」のような定型的な母性の美化は、ちょっと違和感を持った。論考全体としても、物語やストーリーの紹介が多く、論理展間よりも情緒的な説明に終始していた印象である。


明恵【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#026】


【1月26日】明恵:1173.1.8~1232.1.19

秋田城之介道覚知、遁世して梅尾に栖みける比、自ら庭の薺を摘みて味噌水と云う物を結構して上人にまゐらせたりしに、一口含み給ひて、暫し左右を顧みて、傍なる遣戸の縁に積りたるほこりを取り入れて食し給ひけり。大蓮房座席に候ひけるが、不審げにつくづくと守り奉りければ、「余りに気味の能く候程に」とぞ仰せられける。

『明恵上人集』久保田敦・山口明穂校注、岩波文庫、1981年

【アタクシ的メモ】
秋田城之介道覚知が、明恵上人に雑炊をつくったところ、「あまりにも美味しくて」といって、ほこりを入れて食べた。物質的、身体的な欲望を「執着」として、否定したようだ。


質屋へ走り、酒屋をたたきおこす【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0052】


【短編小説】ひとつの目標/星新一
善意をもって世界征服をめざすグループに誘われるエフ博士。グループに参加して、人類のためにと、多くの知性やパワーを結集し、史上初めて世界征服が実現する。が、しかし、目標が達してしまうと、優れたメンバーも退屈してしまうのだ。イベント前までの方が、ワクワクするのに似ているかもしれない。ある意味、贅沢な悩みだろう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】系図/三木卓
初めて自分の子どもが生まれたときのことを思い出した。誕生を喜びながらも、何だかフワフワした感じ。その時、自分の親はどうだったんだろうとは考えなかったが、誰しもきっと似たような感情を持つのだろう。歴史はくり返すというのか、家族の継承というのか。

【論考】「捨てる」ということについて/森本哲郎
一遍は、すべて捨てよと説いたという。確かに余計なものはもちろん、あらゆるものを捨て去れたら、それは超越者であろう。ただ、人間は容易にすべてを捨てられるわけでもなく、捨てるにしてもひとつひとつではないのか。そういう意味では、一遍の説を実践するならば、長い時間がきっと必要だ。


モーム【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#025】


【1月25日】モーム:1874.1.25~1965.12.16

およそ良心というものは、社会が自らを維持する目的でつくった規則が守られているかどうかを監視するために、個人の内部に置いている番人である。個人が法律を破らぬよう監視するために、個人の心の中に配置された警官だとも言えよう。自我なる要塞に潜むスパイなのだ。世間の人に支持されたいという人間の願望はとても強く、世間の非難を恐れる気持ちはとても激しいので、結局、自分の敵を自分の城内に引き入れてしまったのである。

『月と六ペンス』行方昭夫訳、岩波文庫、2005年

【アタクシ的メモ】
「良心」は、人が他者から認められたい、あるいは非難されたくないとつくり出したということか。自然と生まれたり、獲得できるのではなく、他者の目があるからこそ、自分の敵である良心を生み出すという。性悪説。


おのぞみの結末【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0051】


【短編小説】一年間/星新一
冒頭の二人の女性を勘違いする件が、事実関係自体、よく理解できなかった。意図した表現だとは思うが、どっちがどっちなのか…?という感じである。ロボットとの生活の結末は、分からなくもないが、人への接し方にそれほど汎用性があるわけでもないのではと思ってしまったのが、正直なところである。

【詩・俳句・短歌・歌詞】I was born/吉野弘
人間の生は、自身の意志ではなく、受け身であるということについては、そう、その通りと思う。カゲロウの話は、初めて聞いたので、驚きとともに、納得感がとても大きかった。これもやはり、詩というよりも散文のように見えるが、だからこそ説得力があったと思う。

【論考】芸術の秘密について/森本哲郎
写生とは対象をうつしとること。なぜうつしとろうとするのか。「うつしてることによって、対象と合一し、対象を超えたいと思うから」というのに、とても共感する。私は小説をそのまま書き写しているが、その行為は、まさに合一と超越のためである。上や横から眺めたり、解釈せず、ありのままを見つめることが、対象と対峙できる唯一の方法ではないのか。


ホフマン【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#024】


【1月24日】ホフマン:1776.1.24~1822.6.25

そのとき、けだかい美しさと気品を備えたゼルペンティーが寺院の奥からすがたを現す。彼女は黄金の壺をたずさえている。その壺から美しい百合の花が一輪咲き出ている。かぎりないあこがれが言い知れぬほどの歓喜となって、彼女のやさしいひとみにもえている。こうして彼女はアンゼルムスをじっと見つめて、口をひらいた――「ああ、いとしいかた! 百合が花を開きましたわ――最上の願いが達せられました。わたしたちのしあわせに比べられるようなしあわせがこの世にあるでしょうか」

『黄金の壺』神品芳夫訳、岩波文庫、1974年

【アタクシ的メモ】
百合の花が咲くことが、最上の願いであり、それがしあわせだという。ささやかな事柄でも大いに喜べるのか、それとも、これまでの何らかの経緯で、強い願いになっていたのだろうか。


スタンダール【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#023】


【1月23日】スタンダール:1783.1.23~1842.3.23

さて、諸君、小説というものは大道に沿うてもち歩かれる鏡のようなものだ。諸君の眼に青空を反映することもあれば、また道の水溜りの泥濘を反映することもあろう。すると諸君は、鏡を背負籠に入れてもって歩く男を破廉恥だといって非難する! 鏡は泥濘を映し出す、そこで諸君はその鏡を非難しようというんだ!

『赤と黒』(下)桑原武夫・生島遼一訳、岩波文庫、1958年

【アタクシ的メモ】
世界はよくも悪くも語られる可能性があるということか。そして、悪く語られたからといって、非難しても仕方がないと言いたいのだろうか。


地球は人類のものなのだから【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0050】


【短編小説】最後の地球人/星新一
そんな世界にはならないだろうと思いながらもグイグイと読まされ、身につまされてしまった。前半にあった「地球は人類のものなのだから」という一文が印象に残る。また、最後の「光あれ」も象徴的 ではあるが、どうしてそれほど自信を持てるのが、私には理解できなかった。

【詩・俳句・短歌・歌詞】虫の夢/大岡信
ある意味、宣言のような、叫びのような詩である。ロジカルなわけではないが、何とも説得力がある言葉たち。得てして人は、自分がにんげんであることを忘れて、自分の視点や認識だけで、世界を決めつけてしまう。作者はそうした態度に対して、明確に警告を発してくれているようだ。

【論考】情感について/森本
この論考を読んで、「保育園落ちた日本死ね!!!」を思い出した。もちろん句ではないけれど、短い言葉で圧倒的な情感を表現していたからだ。また蚊屋に関する件についても、現在はオンラインの情報が膨大に増え、物に対して情感を見い出すことが激減したなとも思った。


「カインとアベル」「神奈備」など【「1日1ページ教養シリーズ」を毎日読む#021】


第3週第7日(日)
■1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365
21 宗教:カインとアベル
カインとアベルは、アダムとイブの一番目と二番目の息子。兄カインは土地を耕す者になり、弟アベルは羊を飼う者になった。ある日、神が二人に捧げ物をするように命じたことから、カインは嫉妬でアベルを殺してしまう。それを知った神は、罰としてカインを呪い、また殺されないように印をつけたという。

■1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365【人物編】
21 伝道者・預言者:ゾロアスター
ゾロアスターが創始したゾロアスター教は、2000年以上にわたり、現在のイランとインドにおよぶ広範な地域で信奉された宗教。ゾロアスター教では、究極的な魂の審判者である最高神アフラ・まずだーを信奉し、来世の存在を信じる。死後の世界では、善人と悪人が区別されるという来世観である。

■1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365【現代編】
21 大衆文化:『ちびっこギャング』
アメリカの映画監督ハル・ローチが生み出した子供向け短編シリーズ『ちびっこギャング』は、1922年に初登場し、その後、数十年にわたって映画館やテレビで人々を楽しませた。ローチは出演者として、白人と黒人の両方を起用するなど、当時としては非常に革新的だった。

■1日1ページ、読むだけで身につくからだの教養365
21 医学の歴史:穿頭術 古代インカの脳外科手術
紀元1000年にさかのぼる、古代インカ人の頭蓋骨において、頭部外傷を治療するための手術を受けていた証拠が示された。具体的には、頭蓋骨のごく一部が穿頭術(また穿孔術)と呼ばれる方法によって、除去されていたのである。頭蓋骨に穴を開け、余分な液体を排除しようとしたようだ。

■1日1ページ、読むだけで身につく日本の教養365
21 哲学・思想:神奈備
神奈備とは神が宿る場所、物の意とされるが、主に神が住むとされる山を指す。奈良の三輪山(御諸山)が代表例で、きれいな円錐形をした成層火山(コニーデ)であることが多い。

■1日1ページ、読むだけで身につく日本の教養365【歴史編】
21 文化・芸術:青銅製祭器
本格的に青銅が渡来したのは、鉄とほぼ同時の弥生時代だったと考えられる。鉄より錆びにくい青銅は、長期間輝きが保たれるため、祭祀具に最適であった。青銅器の呪具として、謎が多いのが銅鐸だ。後期になるほど、大型化している。


「こういうがええんじゃ」【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0049】


【短編小説】なぞの青年/星新一
「なぞの青年」の正体は、税務署の職員。自らの意志で、困っている人たちへお金を提供していた。「わたしが異常で、ほかの議員や公務員たちは、みな正気だとおっしゃるのですか」という発言が印象に残った。法や制度に忠実だと、正しく間違いはないが、実は誰も幸せにしない、というアイロニカルな状能を指摘しているのではないか。

【詩・俳句・短歌・歌詞】学校/辻征夫
エッセイのような詩。自分は学校がそれほど好きではなかったが、行くのが嫌になるほどでもなかった。ただ、自分の子どもが学校に行けなくなったこともあり、じんわり共感しながら読めたと思う。最後の、同じく学校をサボっている娘から、「行けば?」と勧められるコミカルさと、「うん」と行く気になるポジティブさが、何とも微笑ましい。

【論考】「自分の世界」について/森本哲郎
どんな年齢であれ、確固たる自分の世界を持っていることは重要だし、貴いとも思う。一方で、当人が持つその世界像が色眼鏡で見て、偏りでしかなかったら、どうなのだろう。「自分の」と言うくらいだから、他者とは何らか異っているはずだ。自己と違った認識を受け入れ、認めることは、そんなに簡単ではない。