うさぎはうれしくてはねるのか?【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0080】


【短編小説】わたしの騎手/ルシア・ベルリン ◎
わずか2ページの短編小説。正直、アレって思ってしまった。緊急救命室で働く「わたし」は、ケガをした騎手を担当する。彼の言葉が通じるからか、また女性だからか、あっという間に母と息子のような関係性になる。物語の短さもあって、不思議な読後感であった。なお、時間がかかる例えでミシマが出てきた。

【詩・俳句・短歌・歌詞】うさぎ/まど・みちお △
前回の「われは草なり」に似ているが、こちらはピンとこなかったし、うさぎの愛らしさのようなものは感じられなかった。「うさぎにうまれてうれしい」と直接的に表現されるものの、どのようにうれしいのか、あるいは、なぜうれしいのかなどが、書かれていないから、伝わってこないのだろうか。

【論考】人間の感性について/森本哲郎 △
感性全般ではなく、何を美しいと感じるかを考察した論考。異論を説えたいわけではないものの、最後に「美というものにあまりに不感症になっているこんにちの私たち」と急に言われても、取って付けたような主張に思えた。美を意識しないというより、特に最近に日本人は、好き嫌いが前面化しているように感じている。


草がしゃべるのを聞いてみたくなった【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0079】


【短編小説】掃除婦のための手引書/ルシア・ベルリン ◎
「わたし」が語るのは、掃除婦として訪れる方々の家庭のことと、亡くなってしまった夫のターについて。家やその住人によって、生活、生き方は様々だなと思って淡々と読んでいたが、この短編は、最後の一文「わたしはやっと泣く」のために書かれたのだと深く納得した。日々、色々な家庭に入ることで、悲しみを抑えられているのだろう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】われは草なり/高見順 ◎
短く似たフレーズ続き、リズミカルだし、読みやすい詩である。草はもちろんしゃべらないけど、もし語り出せるなら、こんな風にしゃべるかもしれないと思ってしまった。われは草なりと宣言しながら、生きる日を美しく、楽しく感じているのも、とてもポジティブで、読むだけで前向きな気持ちになれる。

【論考】暗号の解読について/森本哲郎 △
いくらヤスパースが「われわれは暗号の世界のなかに生きている」と言ったとしても、暗号は基本的に人間が設定するものだから、あまり同意できない。人間は世界を構成するほんの一部でしかないからだ。一方で、「意味」は自らが創り出すものであるという主張には同意できる。


言葉だけが持つ豊潤さ【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0078】


【短編小説】星と聖人/ルシア・ベルリン ◎
前作「ドクターH.A.モイニハン」と、登場人物が同じようだ。「シスター・セシリアを殴って退学になった」とあったが、本作では退学になるまでが書かれている。「わたし」は、同級生から好かれておらず、シスターからも誤解されていた。周囲に馴染めていない、ちょっとイタイ少女ではるが、あっけらかんとして、変な湿っぽさがなく、コメディー的に読めるのがヨイところだろう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】ひとり林に……/立原道造 ○
どんどんと地域が都市化され、ネット空間が膨大になってきている現在に読むと、自然を謳う詩は、それだけで貴重に感じる。そして、たとえば動画のようなもので自然を見せられるよりも、臨場感が感じられるから不思議だ。言葉は、目には見えないものも表現できるからだろう。

【論考】喜劇と悲劇について/森本哲郎 △
題名を見てかなり期待して読んだが、あてが外れてしまった。『ドン・キホーテ』の解説的な話がずっと続き、『白鯨』のときよりはわかりやすかったものの、結局、喜劇と悲劇という命題にはつなげられていないと思う。助走ばかり長く、一瞬で結論に行こうとしすぎではないか。


私たちはオンラインに閉じこもりがち【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0077】


【短編小説】ドクターH.A.モイニハン/ルシア・ベルリン ○
腕のいい歯医者の祖父が、ある日、全部歯を抜いて、自分が作った最高傑作の入れ歯にする話。読んでいるだけで痛々しい。なぜ歯を抜いてしまうのか、動機は分からないままだ。途中、気を失ったりしてしまい、ハチャメチャな状況だが、登場人物に、生きているパワーを感じる不思議な読後感だった。

【詩・俳句・短歌・歌詞】花/村野四郎 ○
この詩に書かれる通り、花の中にも小さな世界があるなと、改めて思い起こした。気づけば、小さな物にグッと近づき、じっと見ることがなくなっていた。スマートフォンやPCの画面ばかり見ていて、リアルな物から遠ざかっているせいもあるかもしれない。今読むと、オンラインばかりにいるなという警句にも感じられる。

【論考】挑戦について/森本哲郎 △
題こそ「挑戦について」となっているが、内容は小説『白鯨』についてのエッセーに近い。また、『白鯨』の中身を知らないと、やや何を言っているのか分からず、文章を読み進めるのがツラくなってしまった。なので、冒頭と最後に示される「すべてが、変更なくおこなわれる」の意味するところも理解できずに終わった。


時間のないころのゆめをみる【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0076】


【短編小説】エンジェル・コインランドリー店/ルシア・ベルリン ◎
ニューメキシコ州にあるコインランドリー店で、トニーとわたしは、偶然にも何度となく居合わせる。なぜかトニーは、わたしの手を見る。そして、ささやかなやり取りが始まる。もちろん大きな事件は起きない。いくつかのエピソードは語られるが、いつの間にか会うことがなくなり、二人の小さな物語は、終ってしまう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】雲の信号/宮沢賢治 ◎
「みんな時間のないころのゆめをみているのだ」という一節が印象に残る。文明がなく、人もいない、いにしえの時を想起しているのだろうか。「ああいいな」から始まり、読み手も同じような穏やかな気分になるが、タイトルである「雲の信号」の意味は理解しきれないままだった。

【論考】バベルの塔について/森本哲郎 △
塔は人間にとって、コミュニケーションセンターの機能を引き受ける受ける重要なメディアであるという指摘は重要だろう。ただ、「バベルの塔」について語ってしまうと、神の意図や聖書の解釈などもあり、ややとっ散らかった論考になってしまったと思う。現代の高層ビル群とバベルの塔を比べるのも、ややありきたりだと感じた。


まもなく死神と出会うだろう【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0075】


【短編小説】ここから世界が始まる/トルーマンカポーティ ◎
学校という目の前の現実を受け入れられず、空想に耽溺する少女の物語のようだ。もしかすると、同年代の当時者として、カポーティは書いたのかもしれない。最後の一文が「まもなく死神と出会うだろう」となっているので、ハッピーエンドではなく、バッドエンドを想像させる。学校という最初に出会う社会に居場所が見つけられないと、良くも悪くも人は本当に生きづらくなってしまう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】六月/茨木のり子 ○
すっかり解釈できた感じはしないものの、ポジティブな詩だと思うので、読後感はよいものであった。ただ、なぜタイトルが「六月」なのか、「黒麦酒」に意味はあるのか、など分からないままである。作者の茨木のり子さんの詩も、ある程度読んできたせいか、親しみも感じている。

【論考】「世界」という書物について/森本哲郎 △
タイトルにある「世界という書物」、あるいは「書物としての世界」の話が後半になるまで出てこないので、ちょっと戸惑ってしまった。また、この論考の本題が語られるのも最後だけなため、やや拙速な感じがあり、説得力が十分ではないと思った。哲学のとらえ方も、論考ごとに違っている印象だ。


似た者同士が不遜な会話を【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0074】


【短編小説】似た者同士/トルーマン・カポーティ  ◎
2回読んだが、怪しい夫人たちの会話がハイコンテクストで、全体を理解できた気にならなかった。それでも、話す内容は犯罪者的なものではあるが、明確にしゃべらなかったり、語尾が暖味だったりすることが、リアリティを感じたせてくれた。人って、こんな風に話すよねと。

【詩・俳句・短歌・歌詞】山林に自由存す/国本国独步 ○
そんなに共感できない詩ではあったが、そもそも作者が言う「自由」とは何だろうなと思ってしまった。詩の表現を借りればい「血のわくを覚ゆ」なのであろうが、自身がワクワクできたら、自由なのかなとも感じてしまう。また、山林だけでなく自然と対峙すると自由さよりも、厳しさを覚えるのではないだろうか。

【論考】ふたたび、ものの見方について/森本哲郎 ○
一人称、二人称の視点だけでなく、第三者の視点が重要で、そうした三つの視点を自在に変えて、総合的に事柄をとらえるべきという考えにはとても賛同できる。ただ論の進め方は、論理よりも、エピソードベースで情緒が先行していることが多く、納得感や理解を妨げているのではないか。


要するに、大したことじゃない【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0073】


【短編小説】西行車線/トルーマン・カポーティ ◎
「IV」から始まり、不思議に思っていたら「III」「II」「I」と、全く別の物語がそれぞれ展開していった。共通点は、最後にバスに乗るということだけ。そして「0」では悲劇的な結末を迎える。ただ、最後の「人はみな、それぞれの道で天国に達するものなれば」という一文が、唯一の救いである。

【詩・俳句・短歌・歌詞】道程/高村光太郎 ◎
「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る」で始まる。やはりこれは、キラーワードだなと思う。詩自体も短いが、自然を父にたとえ、父に見守られることで、長い道のリ(時間軸)を進もうとしている。将来が判然としなくても、未来を切り開こうとする若者の決意表明だと感じた。

【論考】ものの見方について/森本哲郎 △
この論考を一言でまとめると、「要するに、大したことじゃない。生活を愉しめ」ということだ。その主旨自体に反論はないし、それが「陽気な哲学」であると言われれは、その通りであろう。ただ、西洋哲学と比べるのは、あまり意味がないと思う。この哲学は、人間の生き方や態度に近く、知の探求ではないからだ。


ニューヨークの日常でもドラマは起こらない【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0072】


【短編小説】ルーシー/トルーマン・カポーティ  ◎
南部からニューヨークに来て、しばらくそこで過ごしてまた戻ってしまったルーシー。それなりに都会の生活を楽しんだようだが、特別なことが起こったわけではなかった。とても淡々としている。そう、生きていたって、そんなにドラマが起こってくれるわけではない。それは、ニューヨークでも同じことなのだ。

【詩・俳句・短歌・歌詞】自分の感受性くらい/茨木のり子  ◎
気づけば、色々とできない理由を、環境や周囲の人のせいにしていることを、見透かされているように思った。最後の「自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」ももちろん響いたが、「初心消えかかるのを/暮らしのせいにするな/そもそもがひよわな志にすぎなかった」を読んで、背筋が自然と伸びるのだった。

【論考】人間の絆について/森本哲郎 △
どうやら有島武郎が書いた「カインの未腐」という小説を基に論を進めているようだが、説明不足でちょっと唐突な感じであった。また、この論考で言いたいこともよく理解できずに終わってしまった感じである。人間の絆をテーマにするのに、かなり極端な例を持ってきた印象である。


八歳の活力と同年代に死の影【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0071】


【短編小説】これはジェイミーに/トルーマン・カポーティ ◎
もうすぐ八歳になるテディの物語。その年齢らしい純粋さや快活さにあふれた文体である。それだけでも価値のある作品ではないか。だだ八歳の活力、明るさの背後に、同年代ジェイミーの死を感じさせ、重苦しくはないが、悲しみがにじむ。読み手としては、これまでにないパターンに、してやられた感じだ。

【詩・俳句・短歌・歌詞】奴隷根性の唄/金子光晴  △
2023年現在では、なかなか受け入れられない詩ではないだろうか。焦点は、奴隷根性自体を責めているのか、奴隷根性を持つ「人」を非難しているのか。私には「人」を責めているように読めて、共感できなかった。そうした状況は、環境に由来することもあり、個人だけを問題視できないのではと思った。

【論考】生命の不思議について/森本酒郎  △
「自然は経験を必要としない」という言葉から、生物はそれぞれ世界を持ち、それは「総譜」や「意味の計画」だと説明する。しかし、私には「作曲」や、そもそも「意味」が何を差しているのか、よく分からなかった。特に意味というのは、人が、ある視点から見出すものであり、他の生物にとって、意味はあってもなくても構わないのだと思う。