相手を追い出すほどの妬みや嫌悪【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0070】


【短編小説】ルイーズ/トルーマン・カポーティ ◎
ルイーズに対するやや理不尽な嫉みから、エセルは彼女を退学へと追い込む。どうして嫌いという感情だけで、そこまでの行動をとるのだろうか。また、退学に至る理由に、人種差別的なものがあり、今読むとモヤモヤした感情が残る。書かれた当時の空気感はどうだったのだろう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】ぼるぼろな駝鳥/高村光太郎 ○
動物園の駝鳥を読んだ詩のようだ。動物園に行けば、まとめて色々な動物が見られるから、人間にとっては好都合であるが、動物にとっては暮らしやすい環境ではきっとないだろう。筆者の言う通り、駝鳥らしくない駝鳥を見せていても、その意義はとても薄いと感じる。

【論考】身のほどについて/森本哲郎 △
現状に甘んじるわけでなければ、「身のほど」を知ることは大切だと思う。ただ、この論考自体は、イソップによる寓話の紹介、読み方の解説みたいになってしまったようで残念である。テーマや筆者の主張を明確にしたうえで、イソップの物語を活用したら、もっと違った展開になったと思う。


なぜ人は「なぜ」と言わなくなるのか【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0069】


【短編小説】知っていて知らない人/トルーマン・カポーティ  ◎
うたた寝から覚めると、死をもたらす人が目の前にいる。何とも不思議な話。ただカポーティは、直接的な説明はしない。その人物は、母親など身近な誰かが亡くなる日に、姿を現すという。死のキスを受けそうになったところで、ドアの音とともにその人物はいなくなってしまう。ミス・ナニーは悪い夢を見ていたのだろうか。その真偽も、全く語られない。

【詩・俳句・短歌・歌詞】なぜ/川崎洋 ◎
詩の中で様々な「なぜ」が問われるが、世界は不思議に満ちている。そして、その問いには簡単に答えることはできない。作者は最後に、「人はなぜ、なぜを言わなくなるのだろう」と問うが、それは、世界の不思議に解答しづらいためではないか。などと問わず、当り前と受け入れた方が生きやすいだろう。

【論考】永遠について/森本哲郎 ○
題名を見て、とても期待して読んだが、日本人は世の無常を受け入れ、永遠の絶対者を求めない、ということであった。筆者は、日本とインド、あるいは西洋などと比較し、日本人のメニタリティー、無常感を説明する。それについては、異論はないが、どうして日本人は無常に安住するのかを知りたかった。


「生ましめんかな」と命を捧げる【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0068】


【短編小説】沼地の恐怖/トルーマン・カポーティ ◎
ストーリーの最後を読むと、どうしてジェプとレミーは逃げた因人なんて探しに行ってしまったのだろうと思ってしまう。一人は命を落としてしまうし、もう一人はそれを目の前にして助けてあげられなかった。誰も救われない物語である。また、カポーティは、なぜこの短編小説を書こうと思ったのだろう。読み終わって、解けない2つのモヤモヤに包まれている。

【詩・俳句・短歌・歌詞】生ましめんかな/栗原貞子 ◎
命は継いでゆくものだと改めて思った。その命は、ある意味で、その人のものかもしれない。しかし、人は一人で生きているわけではなく、助け合いながら、年長者が幼き者を世話しながら暮らしている。原爆が落とされたばかりの時、地獄のような瞬間においても、「生しめんかな」と命を持げた人がいた。涙なしには読めない。

【論考】「中くらゐ」について/森本哲郎 △
一茶の言う「中くらゐ」というのは、ちょうどまんなかではなく、自分にふさわしい程度、分相応ということらしい。ただ、この言葉の真意よりも、むしろ一茶の知らなかった人生の方に興味がいってしまった。恵まれなかった若かった頃や苦労が多かった晩年など。そうした意味では、論考というより評伝に感じる。


禍いに満ちていても、その運命を抱きしめる【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0067】


【短編小説】火中の蛾/トルーマン・カポーティ
とても短いストーリー。そして、やはり哀しい物語。結局、命を落としてしまうセイディは、自業自得だったのか、エムの嘘が原因だったのか。因果関係は書かれていないため、読者それぞれが、自分なりに想像するしかない。唐突で急な終わり方含め、結論を読者にねるのがカポーティ流か。

【詩・俳句・短歌・歌詞】ゆずりは/河井酔茗
人類の歴史というか、人々が次世代に継承していく営みをゆずりはに例えている。自分自身も40歳をすぎたころから、生きるのは子どもたちや社会のため、と考えることが多くなっていた。だから、この詩のメッセージにとても共感できる。また、語りかける子どもたちにとって、押しつけがましくなっていない点もよかったと思う。

【論考】禍いについて/森本哲郎
なぜ人は禍いから逃れられないのか。禍いについての考察。「パンドラの箱」の話は知っているようで分かっていなかったので、改めてひも解いてもらってありがたかった。途中の論の進め方はやや強引な印象もあったが、筆者の結論である「一生がどんなに禍いに満ちていても、その運命を抱きしめるしかない」には同意。弱者の論理かもしれないが。


If I Forget You【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0066】


【短編小説】もし忘れたら/トルーマン・カポーティ
子供の恋、不釣り合いな恋、もしかすると一方的な恋。そんな恋愛感情に夢見心地な少女のストーリー。彼女の感情しか語られておらず、内なる熱さは感じるものの、彼女の周囲はとても冷めているように見える。彼女と彼女以外のギャップが大きいのだろうが、彼女は内に残ったまま急に話が終わってしまった。明日からの彼女が心配である。

【詩・俳句・短歌・歌詞】世界は一冊の本/長田弘
何だか理解できるようで、一筋縄でいかない詩だった。「世界というのは開かれた本で、/その本は見えない言葉で書かれている。」と言われると、世界にあるすべての存在を本にたとえているのだろうか。「本を読もう。」とは、すべての存在に興味を持とうということなのだろうか。

【論考】青春について/森本哲郎
私が「自分」というものに気づいたのは、もしかすると他の人より早かったのかもしれない。一方で、ここで書かれている「春の嵐」のようなものもなかったように思う。あくまで自覚、自認の話なので客観性に乏しいが、変な人格形成だったのだろうか。そうした意味でも、読んでいてあまりピンとこなかった。


「僕」による温かな主観【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0065】


【短編小説】ミス・ベル・ランキン/トルーマン・カポーティ
ミス・ベルの視点で書かれた部分もあるが、「僕」からの目線で書かれているのがヨイと思った。客観的すぎず、少し温かな主観が入ることで、かえってミス・ベルの人となりが冷静に理解できたのではないだろうか。ミス・ベルがひとり命を落とすシーンは、哀しくも、美しい描写だと感じた。

【詩・俳句・短歌・歌詞】伝説/会田綱雄
何度も読んだが、何とも理解できた気がしない。環境や人類のサイクルについての詩のような気もするが、ロジカルな表現はほとんどないため、雰囲気でしか把握していないのだろうと思う。湖、蟹、 わたしたら、ちちははなど、繰り返しキーワードが出てくるが、どういう関係性にあるのかが分からないのである。

【論考】「待つ」ということについて/森本哲郎
私は、待つことも、待たせることも苦手だ。病院などいつ呼ばれるか分からないまま座っているのは嫌だし、待ち合わせに遅刻して誰かを待たせるのはもっと嫌である。ただ「人生とは待つことなのです」という発言を聞いて、確かにとも思った。何かの到来を期待していなければ、私たちの人生に変化が起きないからである。


盗みの告発だけで終わるストーリー【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0064】


【短編小説】ヒルダ/トルーマン・カポーティ
どうしてヒルダは盗みをはたらいてしまうのか。理由は分からないものの、盗んだこと自体は事実のようだ。ただ、物語はその告発だけで、唐突に終わってしまう。さらに、盗難の嫌疑をかけられた場所でも、盗みを繰り返してしまっているようだ。なぜ盗むのか、盗んだものをどうしているのか、そうしたことはー切書かれていない。ましてや、この短編小説のメッセージも不明確なままであるが、それがかえって読み手の頭や心の中をかき乱し、考えさせられるのだ。

【詩・俳句・短歌・歌詞】祝 婚歌/吉野弘
どこかに強い言葉があるわけではなく、ある意味とても淡々としている。それでも、自分が十五年以上の結婚生活を経たうえで読むと、とても正しいことを言っていろように感じる。とは言え、やや抽象的すぎるなという印象もあった。そうした点では、やや読み手に伝わりづらいのではないだろうか。

【論考】沙漠について/森本哲郎
筆者は「沙漠は精神の原点、魂の出発でもあります」と言うが、沙漠を体験したことのない人間からすると、やや偏りのある発言に感じる。もちろん、人間の思考は環境によって大きく左右されるとは思うが、身近に沙漠はなく、日々を生活をしている自分は、精神の原点を確認したり、回帰できないことになってしまうのだろうか。


至福とは?【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0063】


【短編小説】水車場の店/トルーマン・カポーティ
余韻のある一篇だった。水車場の売店の女性が、蛇に咬まれた少女を助けるだけの物語とも言えるが、女性の過去を連想させる部分もあり、それが読者の頭の中に広がりを持たせるのだろうか。カポーティはまだ2作目だが、すでに癖になっている。

【詩・俳句・短歌・歌詞】鳩/高橋睦郎
一読、二読では、ちょっとよく分からなかった。自分の読解力のなさが、恨めしい。解説的なnoteを読んで、書かれていることがやっと分かった。鳩を介しているが、「あのひと」と「あたし」の恋類様。もしかしたら、道ならぬ恋なのかもしれない。ただ、軽快なやり取りがユーモラスで、湿った感じがないのが救いである。

【論考】ふたたび、至福の世界について/森本哲郎
筆者は、我れを忘れて没頭できる、つまり忘我が、幸福だという。しかし、私自身は体験的に、至福とは自分自身を含め、すべてが肯定されている瞬間ではないかと思っている。自己も他己も、目の前にある存在すべてが、世界から肯定的に捉えられ、歓迎されている必要があるのではないか。そうした意味では、筆者の考えとは平行線である。


想いと行動は一致するとは限らない【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0062】


【短編小説】分かれる道ノトルーマン、カポーティ
ティムの十ドルがなくなる(十ドルは現在の換算でいうと、20~30万円くらいか)。一緒にいるジェイクが取ったのか。物語は、ジェイクが最行の握手の際に、十ドルを渡すことで幕を閉じる。事実は分からない。ジェイクは脅かしただけなのか、餞別として自分の金て渡したのか。それぞれの行動と想いが錯綜している様子が、短い文章の中に凝縮していた。

【詩・俳句・短歌・歌詞】なのだソング/井上ひさし
文末がすべて「のだ」なので、リズミカルだし、ユーモラスな感じも出ている。ただ、それぞれ断言されているものの、作者のメッセージや意図が見えないため、読み終って「だから何?」と思てしまった。残念ながら、アイデアありきの詩に読めてしまった。

【論考】至福の世界について/森本哲郎
「子供だけが持ち得る純粋な世界が、ほんのわずかな時期だけ許される至福の世界だ」という筆者の主張に、私自身は賛同できない。自身の経験的にも違っているし、子供だけが純粋無垢だとは思いわない。至福は純粋さによってもたらされることもあれば、そうでないこともあるだろう。少し定型的すぎる考えではないか。


年齢を重ねでも、初々しさを忘れない【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0061】


【短編小説】要求/星新一
殺人計画を立てる男の話から始まるが、UFOの到来とともに、地球は異星人の毒舌と恐るべき攻撃にさらされることに。そして、厳しい要求に世界全体で応えようとしたことで、地球は大きく変化していく。結局、男も殺人などバカバカしくなるほど平和な世の中になり、ある意味で倒錯した状況になってしまうのだ。読者としては、そのねじれた感じが心地よかった。

【詩・俳句・短歌・歌詞】汲む/茨木のり子
回顧録のような、先達へのお礼の手紙のような詩である。筆者は「私はどきんとし」と書いているが、読んだ私も一緒にどきんとしたというか、心に深く届いたというか。「初々しさが大切なの/人に対しても世の中に対しても」という言葉を聞いて、初心に帰りつつ、何ともホッとしたのだった。

【論考】ふたたび「風流」について/森本哲郎
筆者の主張は、「風のなかに自分の魂の声をきくこと、それがほんとうの風流だ」ということのようだ。そうだと思う部分もあるが、「魂の声」や「風流」が十分に議論されていないようにも感じる。風に関する俳句や歌、エピソードが数々語られるが、むしろ理由や論理を語ってもらいたかった。