プレヴェール【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#035】


【2月4日】プレヴェール:1900.2.4~1977.4.11

三本のマッチ 一本ずつ擦る 夜の中で
はじめはきみの顔を隈なく見るため
つぎはきみの目を見るため
最後のはきみのくちびるを見るため
残りのくらやみは今のすべてを思い出すため
きみを抱きしめながら。
(「夜のパリ」)

『プレヴェール詩集』小笠原豊樹訳、岩波文庫、2017年

【アタクシ的メモ】
夜の暗闇と炎の小さな明かり。段々とミクロな視点に移行していき、最終的には視覚ではなく、心の中に回帰する。温かな感触とともに。


年齢を重ねでも、初々しさを忘れない【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0061】


【短編小説】要求/星新一
殺人計画を立てる男の話から始まるが、UFOの到来とともに、地球は異星人の毒舌と恐るべき攻撃にさらされることに。そして、厳しい要求に世界全体で応えようとしたことで、地球は大きく変化していく。結局、男も殺人などバカバカしくなるほど平和な世の中になり、ある意味で倒錯した状況になってしまうのだ。読者としては、そのねじれた感じが心地よかった。

【詩・俳句・短歌・歌詞】汲む/茨木のり子
回顧録のような、先達へのお礼の手紙のような詩である。筆者は「私はどきんとし」と書いているが、読んだ私も一緒にどきんとしたというか、心に深く届いたというか。「初々しさが大切なの/人に対しても世の中に対しても」という言葉を聞いて、初心に帰りつつ、何ともホッとしたのだった。

【論考】ふたたび「風流」について/森本哲郎
筆者の主張は、「風のなかに自分の魂の声をきくこと、それがほんとうの風流だ」ということのようだ。そうだと思う部分もあるが、「魂の声」や「風流」が十分に議論されていないようにも感じる。風に関する俳句や歌、エピソードが数々語られるが、むしろ理由や論理を語ってもらいたかった。


福沢諭吉【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#034】


【2月3日】福沢諭吉:1834.12.12~1901.2.3

私が江戸に来たその翌年、すなわち安政六年、五国条約というものが発布になったので、横浜は正しく開けたばかりのところ、ソコデ私は横浜に見物に行った。その時の横浜というものは、外国人がチラホラ来ているだけで、掘立小屋みたような家が諸方にチョイチョイ出来て、外国人が其処に住まって店を出している。其処へ行ってみたところが、一寸とも言葉が通じない。此方の言うこともわからなければ、彼方の言うことも勿論わからない。店の看板も読めなければ、ビンの貼紙もわからぬ。何を見ても私の知っている文字というものはない。英語だか仏語だか一向にわからない。

『新訂 福翁自伝』富田正文校訂、岩波文庫、1978年

【アタクシ的メモ】
至極当たり前の話しではあるが、言葉が通じなければ、理解は進まない。一方で、未知の環境に積極的に飛び込み、自身の無知を自覚することが重要なのだろう。


ラッセル【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#033】


【2月2日】ラッセル:1872.5.18~1970.2.2

義務感は、仕事において有用であるが、人間関係ではおぞましいものである。人びとの望みは、人に好かれることであって、忍耐とあきらめをもって我慢してもらうことではない。たくさんの人びとを自発的に、努力しないで好きになれることは、あるいは個人の幸福のあらゆる源のうちで最大のものであるかもしれない。

『ラッセル 幸福論』安藤貞雄訳、岩波文庫、1991年

【アタクシ的メモ】
周囲の人たちを好きになれるかどうかで、個人の幸福度は変わるということか。確かにそうかもしれないが、「義務感」との関係性が、よくわからなかった。


広く告げることで、結婚できるのか?【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0060】


【短編小説】空の死神/星新一
ちょっと後味が悪すぎる。訳アリの乗客ばかりを乗せた飛行機が、落雷によって墜落しようとしている。乗客の誰もが現世では都合が悪く、むしろ喜んで死を迎え入れようとする。そのため、乗客を助けようとするCAさんは、逆に邪魔者扱いされて……。読み終った後は、やるせない気持ちにしかならない。

【詩・俳句・短歌・歌詞】求婚の広告/山之口貘
コミカルな印象も持てなくはないが、何とも共感しづらい内容である。少なくとも、今の時代にはフィットしていないと思う。「あなた」こそを待ち侘びているというのであれば、もうちょっと謙虚な熊度が必要なのでないか。「広告」というのも、押し付けがましい感じが強くなる。

【論考】「風流」について/森本哲郎
「風は何かを教えてくれます」。確かに、そうかもしれない。しかし、教えてくれるのは、風だけではないと思う。様々な自然の営みに気づかされるのが、人間だろう。日本人にとって風は特別な存在であるというのは、やや言い過ぎだと思うし、論考全体としてロジックが通っていないと感じた。


ジャックポット教の信者たち【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0059】


【短編小説】おのぞみの結末/星新一
ジャックポット教の信者たちの物語。小説の中で明示されないが、チャンスがあれば、金を持ち逃げしてもヨイという教義のようだ。逆から言うと、そうしたチャンスの到来を願う宗教といったところ。大金を前にして、偶然にも信者たちが、集まってくる。そして、紆余曲折ありながらも、最後にはおのぞみの結末迎えるのだ。終わり方は、やや唐突だった。

【詩・俳句・短歌・歌詞】便所掃除/濱口國雄
トイレの掃除は誰しも好きではないだろう。ましてや、公衆便所のような他人のための掃除ならなおさらだ。この詩では、かなり汚れたトイレを、愚痴りながらも、ゴシゴシと洗ってゆく。体験的な記述か、想像で書いているかは判然としないものの、「朝の光が便器に反射します」が、印象的だった。きっと実体験なのだろう。

【論考】人間を解くカギについて/森本哲郎
ちょっと昔話が過ぎるなあと思った。最後まで読んでも、尻切れトンボな感じだし、言いたいこと、主張もはっきりしないまま終わってしまう。ただ、「人問のすべてを知るということは、自分のすべてを知ると外にない」という考えには共感できるので、そこを掘り下げてほしかった。


徳冨蘆花【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#032】


【2月1日】徳冨蘆花:1868.10.25〜1927.9.18

諸君、幸徳君らは時の政府に謀叛人と見做されて殺された。諸君、謀叛を恐れてはならぬ。謀叛人を恐れてはならぬ。新しいものは常に謀叛である。「身を殺して魂を殺す能わざる者を恐るるなかれ」。肉体の死は何でもない。恐るべきは霊魂の死である。人が教えられたる信条のままに執着し、言わせられるるごとく言い、させられるごとくふるまい、型から鋳出した人形のごとく形式的に生活の安を偸んで、一切の自立自信、自化自発を失う時、すなわちこれ霊魂の死である。我らは生きねばならぬ。生きるために謀反しなければならぬ。

『謀叛論 他六篇・日記』中野好夫編、岩波文庫、1976年

【アタクシ的メモ】
「新しいものは常に謀反であり、生きるために謀反しなければならない」という。言葉だけ聞くと決して間違っていないのではあるが、なぜ「謀反」という言葉を使わなければならないのか。「肉体の死は何でもない」と言い切るのも、やや気になる。