【気になるマーケティング用語】ゲーミフィケーション


<意味>
競争やレベルアップといったゲームならではの要素を、ビジネスやITサービス、情報システムに適用すること。利用者が使用する頻度を高めたり、マニュアルを見なくても操作できるようにするのが狙いだ。ゲーム性によってユーザーの興味関心を引き、継続的な利用や生産性向上を促す。

ゲーミフィケーションの概念自体は古くからあるものだが、米国で2010年に注目を集め始め、日本では2011年後半ころから一気に広がりを見せた。新たなキーワードとして、拡大した背景に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やライフログの普及がある。

<事例>
代表的なゲーミフィケーションの事例として、よく挙げられるのが「foursquare(フォースクエア)」と「Nike+(ナイキプラス)」である。

「foursquare」は位置情報の投稿を軸に、人とのコミュニケーションを図るSNS。利用者はスマートフォンのGPS機能を使って、自分が訪れた場所で「チェックイン」を行う。そのチェックインごとにポイントがたまり、同じ施設でのポイントが高まると「メイヤー(市長)」という称号を得られる。

利用者に具体的なメリットがあるわけではないが、ポイントや称号といった要素で、サービス利用を促進させている。

もう1つの「Nike+」は、ランニングの愛好家向けに提供されているサービスで、携帯音楽プレイヤーなどを使い、ユーザーの走行距離や時間、経路を記録するというもの。もともとは、ランニングに対する個人のモチベーションアップや記録用という意味合いが強かった。

ただ今では、「走る」という行為を通じて、国を問わず他の参加者とチームを組んだり、競い合ったりできるようになった。FacebookなどSNSと連携することで、ランナーの投稿に合わせ、Facebook上の友達から声援をもらうなど、様々なサービスや機能も提供されている。

<課題>
最近では、自社サイトやプロモーションにゲーミフィケーションを採用するケースも増えた。しかしながら、ユーザーの行動に対してポイントをつけるだけといった、安易な導入、運用で失敗するケースも少なくない。口コミサイトで投稿がポイント目的になり、クオリティが低下し、サービス自体の品質を担保できなくなるといった例だ。

このように、本来のビジネス、サービスとゲーム性とのバランスが難しい。また、ユーザーもしばらくは使うが、段々と飽きやすくなるというように、中長期的に利用し続けてもらうことは簡単ではない。そのため、単純にゲーム的要素のあるサービスを投入するだけでなく、運用開始後に利用状況を検証し、チューニングを施す、新しい機能を追加するなど、PDCAを継続的に実施していくことが欠かせないだろう。


『ゴムあたまポンたろう』長新太・作


「ソーシャル時代」とも言われる昨今、通勤電車に乗っていても、多くの人がスマートフォンでFacebookやTwitterを利用しています。若い人を中心に、ソーシャルメディアが、現代人の生活に欠かせぬものとなってきているようです。

では、そもそも「ソーシャル」とは、一体何を指しているでしょうか。この問いに対する答は、思いのほか難しいものに思えます。

ソーシャルの原語である「social」を日本語に訳せば「社会的な」となります。しかし、「社会」とは国や地域、はたまた時代によって、意味や様相が大きく変化します。日本とアフリカにおける社会のあり方は違っていますし、たとえ近隣国であっても同一ではありません。日本国内に限定したとしても、平安時代、江戸時代、平成のそれぞれが、同じ社会だとは言えないでしょう。

今回私が紹介するのは、『ゴムあたまポンたろう』という絵本です。主人公のゴムあたまポンたろうは、頭がゴムで出来ている男の子。その頭が大男の角、バラのとげ、オバケの頭、ハリネズミに、ぶつかり、刺さり、蹴られることで、理由も明かされぬままあちこち移動を繰り返します。

移動する中で、ゴムあたまポンたろうは様々な感情を抱きます。「わーい」と叫んだり、心配したり、驚いたり、怖くて震えたり、泣きたくなったり。頭がゴムであるばかりに、宿命的に移動を義務付けられているようで、各々の状況を受け入れて話は進行します。まさに「郷に入っては郷に従え」といった感じです。

あるページでは大男が横たわり、あるページではオバケの親子と出会い、あるページでは動物たちがズンズン歩き、あるページでは海の上を飛んでいます。それこそ社会常識では考えられない状況ではありますが、ゴムあたまポンたろうは、“そうである状況”を引き受け続けます。

この本はとても独特な色使いで、ページをめくるごとに不思議なシチュエーション、不条理な情景がビビットな色で描かれています。こうしたページ一つひとつを「社会」と見たてると、この社会とあの社会に共通性や連続性は見つかりせん。なぜそのような状況であるのか、正当性は棚上げされているようです。

「社会」とは歴史をさかのぼることで、あるいは地政学的に分析を試みることで、これこれの理由で、今こうであると説明がつくものなのかもしれません。それでも、ゴムあたまポンたろうの物語を読み、彼の姿を虚心に眺めていると、「社会」というものの根源的な無根拠さを感じずにはいられなくなります。

『ゴムあたまポンたろう』長新太・作/童心社


【気になるマーケティング用語】サブスクリプションコマース


<意味>
サブスクリプションコマースは、毎月一定の金額を支払うと、特定の商品が定期的に届くサービス。端的な表現で言えば、定期購入のことである。昨今、アメリカで注目を集めていることもあり、日本でも脚光を浴びるようになってきた。

考え方自体は決して新しいものではなく、通信販売でよく実施されてきた「頒布会」も同様の手法だ。そのほか水やサプリメントの宅配や雑誌の定期購読なども、サブスクリプションコマースの1つと言え、以前から頻繁に行われてきた販売方法である。

<解説>
こうした手法が改めて見直されている背景に、市場に商品があふれている状況がある。消費者にとって商品の選択肢は膨大になっており、商品情報を収集、整理するだけで多大な労力を伴う。特に多忙を極めるビジネスパーソンなどにとっては、商品を買うための作業が負担になり、消費行動が鈍化する要因になっている。

サブスクリプションコマースであれば、消費者自身がいちいち商品を選択する必要はなく、買い物に出かける手間もかからない。半ば自動的に自分のほしいものが手に入る。提供コストを抑えやすいこともあり、商品に対して値ごろ感、割安感を感じる場合も少なくない。

提供する事業者にとっても、メリットがある。「顧客を長期的に囲い込み、安定的な売上が見込める」、「商品の販売数も予測が立ちやすく、在庫リスクが軽減される」、「一回の購入ごとに対応するわけではないため、オペレーションコストを抑制できる」などが挙げられる。

<課題>
最近のサブスクリプションコマースでは、先述した水の宅配のように同じ商品を定期的に届けるというよりも、事業者があるカテゴリーの中で、その都度送る商品を選ぶ例が多い。そのため消費者における定期購入の付加価値は、便利、手ごろだけでなく、どれだけ気の効いたセレクトをしてもらえるかに重点が移ってきている。つまり、提供者側に商品を“目利き”する能力が問われているのだ。

こういった点を踏まえると、提供者は商品に対する専門性を持っていることはもちろん、社会のトレンドや顧客の好みなど、多面的に商品を企画する必要が出てくる。商品を受け取ったときや使ってみたときの印象、実感が重視されるため、ユーザーの生活シーンを考慮し、どのような体験を演出できるかのという、顧客目線での商品企画が欠かせなくなるだろう。


【気になるマーケティング用語】Fコマース


<意味>
Fコマースとは、Facebook上で行われるEC(電子商取引)のこと。Facebookページやニュースフィード、決済機能をはじめ、「いいね!ボタン」といったソーシャルプラグイン(追加機能)などをプラットフォームとして使う。Facebookを活用した販売促進の活動を含めて、Fコマースと呼ぶことも多い。

「ソーシャルコマース」という言葉もある。ECや販促にソーシャルメディアを利用することを言い、その中でFacebookに限定して用いられるのがFコマースである。

<解説>
オンラインで買い物をするECサイトは、既に多く存在している。では、なぜFコマースが登場し、期待が寄せられているのか。サービスを提供する企業が、ソーシャルグラフ(利用者同士の交友関係情報)を利用したプロモーションなど、Facebookならではの口コミや伝播力に魅力を感じているからだ。

Facebookは、友達関係を軸とした人と人とのつながりで形成されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。Facebook上で店舗を運営していれば、商品に対する購入意欲の有無にかかわらず、人的関係性に基づいて人が集まりやすい環境にある。

ECサイトに訪れて、商品を購入するユーザーにとって重要なのは、品揃えの豊富さ、納品までのスピード、商品や送料の金額など、購入するための具体的なサービスや機能。それは商品購入へのモチベーションを十分に持っているためである。

しかし、「潜在顧客」のような購入意欲が顕在化していない顧客候補になると、購入検討はおろか、ECサイトへの来訪すら覚束ないのが実情だろう。Fコマースであれば、こうした層へアプローチでき、これまで開拓できなかった新規顧客の獲得や、効率的な集客を実現できる可能性がある。

<課題>
Fコマースの持つ潜在力に将来性を感じる企業がいる一方で、懐疑的に捉える企業もある。「Facebookなどソーシャルメディアはあくまで会話の場。モノを売る場ではないのだから、いくら多数の人がいても商品は買ってもらえない」。こうした意見が、Fコマースに疑問を持つ企業の代表的な見解ではないだろうか。

事実、Fコマースで成功した事例を聞く機会は少なく、市場全体としても活況を呈しているとは言えない状態。そうした意味では、Fコマースで新たな顧客を獲得し、マーケットを切り拓くのは決して容易ではない。

Facebook上に店舗を置きさえすれば、従来コミュニケーションできなかった顧客層が現れ、売上にも貢献すると考えるのは早計である。メリットとデメリットを十分に踏まえたうえで、Fコマースへどのように進出すべきか、あるいは進出しないのか、冷静な戦略が求められている。


【気になるマーケティング用語】O2O(オー・ツー・オー)


<意味>
O2Oは、オンライン・ツー・オフラインの略。オンライン(インターネット)での活動を、オフラインである実店舗などへ誘導し、購買行動につなげる考え方だ。インターネットと実店舗の連携は以前から存在しており、2000年頃には「クリック・アンド・モルタル」と呼ばれた。近年、システム連携の高度化やモバイル端末の進化にともない、O2Oとして新たに脚光を浴びている。

狭義では、オンラインからオフラインへの一方向を指し、実店舗で購入などの商取引が行われるのが前提となっている。しかし、昨今ではオフラインからオンラインへという逆の流れであったり、インターネット上のコミュニティで日々活動しながら、あるとき無料のイベントへ勧誘する例も、O2Oと称されることが少なくない。

<解説>
現在、O2Oが改めて注目を集める主な要因として、スマートフォンの急速な普及が挙げられる。どこにいてもインターネットに接続できるのはもちろん、ユーザーの現在地を把握できるGPS機能が搭載されている点が大きい。

具体的には、スマートフォンを持った利用者が店舗の近くを通ったとき、その場で割引クーポンを発行。ユーザーにとってもタイムリーな情報を提供し、これまで以上の集客を促すといった活用法だ。従来ではできなかったオンラインとオフラインの連動が、IT環境の進展により実現できるようになった。

位置情報を含む膨大な行動履歴や、インターネットでの購入情報などを蓄積し、掛け合わせて分析することで、精度の高い販促活動につなげようとする企業もある。いわゆる「ビッグデータ」の活用で、年齢、性別といった属性情報だけでない、趣味、嗜好を示す大量のデータを分析すれば、ユーザーの購入意欲や気分にかなった提案ができるようになる。

<課題>
スマートフォンは、様々な機能を実装できる高い処理能力を持つため、O2O施策として見ると、オンラインやオフラインで提供する個々のサービスは複雑なものになりがちだ。一企業の取り組みとしてではなく、複数企業の協業による連携システムもあれば、オンラインとオフラインを頻繁に行き来しなければならない仕組みもあるだろう。

オンラインからオフラインへという行程を考えても、ユーザー側と提供者側の関係性は長期化する。従来のように、店舗で消費、購入するポイントだけにサービスを集中すればよいわけではない。

O2O施策を、「一連の体験として顧客に提供する」と捉えれば、それぞれのサービス内容だけでなく、各場面でのインタフェース、対応の整合性など、十分に検討したうえで実施しなければ、実質的な集客効果や売上向上は簡単には見込めないだろう。


顧客との関係強化は長期的な視点で【無印良品(3)】


米アップルが新たに提供した「Passbook」。このアプリケーションを利用し、無印良品らが店舗誘導を試みた。顧客の反応を決めたのは、これまでに蓄積したコミュニケーションの量だったという。

「日々の会話」が顧客を呼び込んだ

 2012年9月21日、iPhone 5の発売、iOS 6配信に合わせ、無印良品ら4社が「Passbook」の実証実験に参加した。Passbookは、米アップルのモバイル端末向け基本ソフト「iOS」に、プレインストールされたアプリケーション。ネット上で入手したクーポンやチケットなどを一括管理できる。

 このアプリは、iPhoneのGPS機能と連携し、クーポンを持つ店に近づくと画面に店の情報を表示。利用者にとっては、今いる場所に関連した有益な情報が自動的に知らされ、生活の利便性が高まる。提供企業の側から言えば、近くにいるユーザーを自分たちの店舗へと誘導できるメリットがある。

 無印良品は、フランス菓子「ブールドネージュ」の無料クーポンを、有楽町店限定で先着1000名に配布した。このキャンペーンでは、他社と比較しても多くの来店客があり、非常によい結果が出たという。「ソーシャルメディアなどを通して、普段から密なコミュニケーションを取ってきたことが、お客様の反応に影響を与えたのではないでしょうか」と良品計画 WEB事業部 WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長の川名常海氏は分析する。

 仮にユーザーが得する情報提供だとしても、それがいつもコミュニケーションを取っている企業か、そうでない企業かによって、受け手の印象は大きく変わる。身近に感じていないブランドや企業から、急にセールのお知らせが届いても、なかなか買う気は起きないだろう。

消費者との関係構築には“長い時間”が必要

 こうした実際の反応も踏まえ、「企業のマーケティング活動において、顧客との関係が長期化しています」と川名氏は指摘する。かつてのように、マスメディアを使った広告の一斉配信では、消費者の購入マインドを喚起することは難しい。マーケティングの焦点を、消費者が商品を購入するポイントだけに当てていては、商品が売りづらい状況にある。

 現在の消費者と企業は、長い時間をかけて信頼関係を結ぶロングエンゲージメントが当たり前。購入前の調査、選定、さらに購入後の利用、保有、推奨といった、購入前後の各段階においても、コミュニケーションが欠かせないのだ。

 特にソーシャルメディアは、商品の購入プロセスにおいて、品定めする購入の始まりの部分や、自分で使ってみた商品を友人などに勧める最終段階などで利用されやすい。「従来、これらの段階は、お客様とのコミュニケーションが取りづらいプロセスでした。ソーシャルメディアを使うことで、顕在化できるようになりました」(川名氏)。

 ソーシャルメディアの活用によって、コミュニケーションの範囲は大きく広がった。川名氏に今後の展開を尋ねると、「ソーシャルなどの情報集約を進め、無印良品ならではの店舗体験を実現したいですね」と応じた。ソーシャル後も見据え、無印良品は明日へと歩みを進めている。


「握手する距離」でソーシャルメディアを使う【無印良品(2)】


「無印良品」はFacebookとTwitterだけで、100万人以上のファンを抱えるブランド。企業のソーシャル活用における代表例とも言える存在だ。それでもソーシャルメディアを「会話の場」と捉え、ユーザー尊重のスタンスを貫く。

ソーシャルメディアでは“招待された”と考える

 無印良品は、商品の企画、製造、販売まで行うSPA(製造小売り)。取り扱うアイテムもスキンケア、靴下から家具、住宅までと幅広く、7000点を超える。これらの多数の商品をユーザーに購入してもらうために、彼らが何より大事だと考えているのが、顧客とのコミュニケーションである。

 それゆえ無印良品では、ソーシャルメディアも「会話する場」と捉えている。「仲良しの集まりに“招待された”と理解しています。気の置けない人たちばかりの場所ですから、いくら我々が企業だからと、急に商品の宣伝を始めても受け入れられないでしょう」と良品計画 WEB事業部 WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長の川名常海氏は強調する。

 「会話する場」に人が集まるのは、コミュニケーションを楽しむためで、企業が販促活動を行うには適さない。無印良品が投稿する際に意識しているのは、内容はもちろん、ユーザーとの距離感。近づきすぎず、遠巻きにもならない距離として「握手するくらいの距離」を保つ。

 BtoCの関係性も変化を見せ始めている。ソーシャルメディアの浸透により、企業と顧客のつながりは、よりフラットになっているからだ。「対等の関係、コミュニケーションですから、格好をつける必要もないですし、嘘をつかないことが重要です」(川名氏)。

Facebook導入もコミュニケーション促進のため

 今でこそ、ソーシャルメディアは生活に欠かせないインフラとも言えるが、登場し始めた当時、日本ではまだまだ小さなムーブメントであった。それでも無印良品は、新しいツールを活用することで、これまで以上にコミュニケーションを加速させる可能性があると考えたという。

 導入を決めた頃、Facebookの国内ユーザー数は100万程度に過ぎなかった。「プラットフォームとして、規模は決して大きくありませんでした。ですが、コミュニケーションが広がる仕組みを持つ点を評価し、採用に踏み切りました」と川名氏は説明する。

 今や、無印良品のFacebookページには約82万のファンが集まり、Twitterのフォロワー数も約19万を数えるまでになった(2012年10月現在)。こうした日本有数のファン数を誇る無印良品にとって、ソーシャルメディアは不可欠な存在なのだろうか。

 顧客との会話を重視するブランドとして、ソーシャルメディアによってコミュニケーションの機会や経路が増えたのは事実。だが、無印良品には店舗があり、Webサイトがあり、様々なプロモーションがある。企業全体で見れば、いくつもあるコミュニケーション施策の一部だと言い切る。

 他企業のソーシャルメディア活用についても、「どのようなコミュニケーションを取りたいのか決まっていないのであれば、無理に使う必要はないでしょう」と川名氏は話す。ツールありき、市場動向ありきでマーケティング手法を決めない姿勢は、地道なコミュニケーションがブランドの源流である無印良品の本質をよく表している。


すべては顧客の声を聞くことから始まった【無印良品(1)】


マッシュルーム缶詰の改良から産声を上げた「無印良品」。今や、老若男女を問わず多くのファンを抱えるブランドだ。顧客から愛され、強く支持される理由は、消費者とのコミュニケーションを重視する企業文化にある。

「主婦の素朴な疑問」から生まれたブランド

 「生のマッシュルームは丸いのに、なぜ缶詰では端の部分がないの」――。この問いは、30年以上前、西友の商品開発で行われた主婦のモニター会議で挙がった声だ。消費者が投げかけた素朴な疑問が、「無印良品」というブランドの原点にある。

 当時、メーカーや販売者にとって、マッシュルームの端に当たる丸い部分がないのは常識であり、疑う余地のない商品規格であった。それでも、主婦の問いに答えるべく改めて確認してみると、見た目をそろえるためだけに10%の部分を切り落とし、捨ててしまっていたのだ。

 こうした既存商品への疑問をきっかけに、西友のプライベートブランドとして、1980年に無印良品は生まれた。無駄を排することで高品質ながらも低コストを実現。「わけあって、安い」が当初のキャッチフレーズである。

 「どんなに小さな声でも、消費者の意見を聞く」という企業カルチャーは、ブランド誕生から現在まで、脈々と受け継がれている。その1つが、Webサイトの「くらしの良品研究所」だ。

 サイト内にある「ご意見パーク」では、「廃番になった製品の再販希望」や「商品をもっとこうして欲しい」など、消費者の1つひとつの要望に耳を傾ける。「お客様の希望に応えた報告はもちろんですが、対応できない場合でも、やらない理由をきちんと説明します」と、無印良品を展開する良品計画 WEB事業部 WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長の川名常海氏は語る。

 企業が運営するWebサイトではあるが、単に提供者側の情報伝達の場とは考えていない。ブランドの考え方の共有を目的とし、顧客との相互理解を深めるコミュニケーションを日々繰り返している。

2万8000人のファンが300万回プレイ

 売上向上を目指すマーケティング活動においても、顧客とのコミュニケーション重視の姿勢は変わらない。最近実施した「MUJI 福 CURRY スゴロク」キャンペーンでは、Webサイト上にすごろくゲームを用意。すごろくで遊んだユーザーにカレーのクーポン1万枚を発行して、店舗送客を図る試みだ。

 キャンペーンは、店舗への誘導、売上の増加にも貢献する一方、コミュニケーションという面で見ても、2万8000人のユーザーが合計300万回プレイするなど、良好な結果を残した。

 1人当たりが30分程度遊んだ計算になり、最も長く利用したファンは17時間もこのゲームに費やしたという。従来の広告では、顧客にこれだけの時間を使ってもらうことは難しい。「だからこそ、無印良品の体験を提供し、確実な接点を持てたことに価値を感じています」と川名氏は話す。

 消費者の要望に耳をすませ、顧客との「声のキャッチボール」に最大の努力を払う無印良品。現在、多数のファン、フォロワーを誇るソーシャルメディアの活用においても、その考えは一貫している。


【気になるマーケティング用語】エッジランク


<意味>
Facebookのニュースフィードの表示は、「最新情報」と「ハイライト」がある。エッジランクは、ハイライトに掲載する内容をユーザーごとに最適化するためのアルゴリズム。一つひとつの投稿に対して、エッジランクで重要度を判別し、自身にとって価値の高い情報を優先的に表示してくれる。

エッジランクを構成する要素は、「affinity score(親密度)」、「Weight(重み)」、「Time(経過時間)」の3つだ。

「親密度」は、投稿したアカウントと普段からどれだけコミュニケーションを取っているかで決まる。いいね!やコメント、メッセージのやり取りなど、Facebook上での交流が多ければ、親密度は高まる。

「重み」とは、ほかのユーザーからの評価の度合い。投稿に対するいいね!、コメント、シェアの回数が多ければ、その投稿は多くのユーザーにとって重要度が高いと判断され、表示されやすくなる。

「経過時間」では、投稿や何らかのリアクションがあってから、現在までに経過した時間がスコア化される。投稿自体は古いものでも、継続的にいいね!やコメントがついていれば、スコアが高まって表示に有利に働く。

<解説>
エッジランクは「友達」同士だけでなく、企業などのFacebookページの表示にも、当然影響を与える。たとえFacebookページがいいね!されていても、エッジランクが高くないと、投稿した情報がユーザーに届かない可能性があるのだ。

ユーザーに届く投稿全体の“16%”しか、実際のニュースフィードには掲載されていないと言われる。投稿の表示は、いわば高倍率を争う状況にあり、単純に投稿数を増やすだけでは、コミュニケーションの実現は困難なのである。

<課題>
エッジランクを最適化する「FEO(Facebook EdgeRank Optimization)」といった考え方もある。とは言え、アルゴリズムを意識しすぎるのはリスクが少なくない。そもそもエッジランクの詳しい内容、要因が開示されているわけではないし、プラットフォーム側の方針次第で突然仕様が変更されてしまうこともあるからだ。

ソーシャルメディアの特徴、長所は、企業であれ個人であれ、フラットな関係性のなかでコミュニケーションが成立すること。その本質に注目すれば、読み手がどんな情報を聞きたいか、何を面白がるのか、ユーザーの立場に立った投稿を続けることが、会話を活性化させる一番の近道ではないだろうか。

<関連マーケティング用語>

「エンゲージメント」


【気になるマーケティング用語】エンゲージメント


<意味>
エンゲージメント(engagement)の文字通りの意味は、「約束」や「婚約」。ただ、経営用語としては、社員の会社に対する「愛着心」や「思い入れ」を表現する言葉である。そうした意味では従来、人事や組織開発の分野で用いられることがほとんどであった。

昨今、ソーシャルメディアの普及とともに改めて注目を集めており、日本語では「きずな」「つながり」「かかわり」などと訳されることが多い。企業のマーケティング活動においても、ユーザーとブランドとの結びつきや、商品を購入する前後の関係性を重視する姿勢が顕著になりつつある。

<解説>
エンゲージメントへの関心が高まる背景に、マーケティング環境の大きな変化が挙げられるだろう。マスメディアを使ったテレビCMのような広告手法だけでは、顧客との関係構築が難しく、一方通行の情報発信ではマーケティング施策の成果が出づらい状況がある。

企業だからと、自社の商品やサービスの情報だけを伝えるのではなく、ソーシャルメディアなども積極的に活用し、ユーザーが共感できる情報提供や、消費者と企業の対等なコミュニケーションの必要性が高まっている。

<課題>
例えばFacebookでは、つながりの度合を把握するため「エンゲージメント率」を使用するのが一般的。エンゲージメント率は、1回の投稿に対していいね!やコメント、シェアがいくつあり、ファン数全体の何パーセントに当たるかを表す指標だ。計算式は、「(いいね!数+コメント数+シェア数)÷投稿数÷ファン総数」である。

エンゲージメント率の標準値は“1%”だとも言われる。消費者の関心度が数値化され、評価、分析の対象にできるため、非常に便利な半面、注意すべき点もある。その数値に一喜一憂したり、過信しすぎてはならないことだ。

ある投稿に「いいね!」がついたとしても、個々の動機は千差万別。単純にパーセンテージが高い、低いだけでなく、ユーザーとの関係性を正しく理解するには、どのようなコンテンツに、どのタイミングで、どのようなコメントがついているのか、ユーザーの文脈を踏まえた数値以外の解釈が不可欠である。