顧客との関係強化は長期的な視点で【無印良品(3)】


米アップルが新たに提供した「Passbook」。このアプリケーションを利用し、無印良品らが店舗誘導を試みた。顧客の反応を決めたのは、これまでに蓄積したコミュニケーションの量だったという。

「日々の会話」が顧客を呼び込んだ

 2012年9月21日、iPhone 5の発売、iOS 6配信に合わせ、無印良品ら4社が「Passbook」の実証実験に参加した。Passbookは、米アップルのモバイル端末向け基本ソフト「iOS」に、プレインストールされたアプリケーション。ネット上で入手したクーポンやチケットなどを一括管理できる。

 このアプリは、iPhoneのGPS機能と連携し、クーポンを持つ店に近づくと画面に店の情報を表示。利用者にとっては、今いる場所に関連した有益な情報が自動的に知らされ、生活の利便性が高まる。提供企業の側から言えば、近くにいるユーザーを自分たちの店舗へと誘導できるメリットがある。

 無印良品は、フランス菓子「ブールドネージュ」の無料クーポンを、有楽町店限定で先着1000名に配布した。このキャンペーンでは、他社と比較しても多くの来店客があり、非常によい結果が出たという。「ソーシャルメディアなどを通して、普段から密なコミュニケーションを取ってきたことが、お客様の反応に影響を与えたのではないでしょうか」と良品計画 WEB事業部 WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長の川名常海氏は分析する。

 仮にユーザーが得する情報提供だとしても、それがいつもコミュニケーションを取っている企業か、そうでない企業かによって、受け手の印象は大きく変わる。身近に感じていないブランドや企業から、急にセールのお知らせが届いても、なかなか買う気は起きないだろう。

消費者との関係構築には“長い時間”が必要

 こうした実際の反応も踏まえ、「企業のマーケティング活動において、顧客との関係が長期化しています」と川名氏は指摘する。かつてのように、マスメディアを使った広告の一斉配信では、消費者の購入マインドを喚起することは難しい。マーケティングの焦点を、消費者が商品を購入するポイントだけに当てていては、商品が売りづらい状況にある。

 現在の消費者と企業は、長い時間をかけて信頼関係を結ぶロングエンゲージメントが当たり前。購入前の調査、選定、さらに購入後の利用、保有、推奨といった、購入前後の各段階においても、コミュニケーションが欠かせないのだ。

 特にソーシャルメディアは、商品の購入プロセスにおいて、品定めする購入の始まりの部分や、自分で使ってみた商品を友人などに勧める最終段階などで利用されやすい。「従来、これらの段階は、お客様とのコミュニケーションが取りづらいプロセスでした。ソーシャルメディアを使うことで、顕在化できるようになりました」(川名氏)。

 ソーシャルメディアの活用によって、コミュニケーションの範囲は大きく広がった。川名氏に今後の展開を尋ねると、「ソーシャルなどの情報集約を進め、無印良品ならではの店舗体験を実現したいですね」と応じた。ソーシャル後も見据え、無印良品は明日へと歩みを進めている。