すべては顧客の声を聞くことから始まった【無印良品(1)】


マッシュルーム缶詰の改良から産声を上げた「無印良品」。今や、老若男女を問わず多くのファンを抱えるブランドだ。顧客から愛され、強く支持される理由は、消費者とのコミュニケーションを重視する企業文化にある。

「主婦の素朴な疑問」から生まれたブランド

 「生のマッシュルームは丸いのに、なぜ缶詰では端の部分がないの」――。この問いは、30年以上前、西友の商品開発で行われた主婦のモニター会議で挙がった声だ。消費者が投げかけた素朴な疑問が、「無印良品」というブランドの原点にある。

 当時、メーカーや販売者にとって、マッシュルームの端に当たる丸い部分がないのは常識であり、疑う余地のない商品規格であった。それでも、主婦の問いに答えるべく改めて確認してみると、見た目をそろえるためだけに10%の部分を切り落とし、捨ててしまっていたのだ。

 こうした既存商品への疑問をきっかけに、西友のプライベートブランドとして、1980年に無印良品は生まれた。無駄を排することで高品質ながらも低コストを実現。「わけあって、安い」が当初のキャッチフレーズである。

 「どんなに小さな声でも、消費者の意見を聞く」という企業カルチャーは、ブランド誕生から現在まで、脈々と受け継がれている。その1つが、Webサイトの「くらしの良品研究所」だ。

 サイト内にある「ご意見パーク」では、「廃番になった製品の再販希望」や「商品をもっとこうして欲しい」など、消費者の1つひとつの要望に耳を傾ける。「お客様の希望に応えた報告はもちろんですが、対応できない場合でも、やらない理由をきちんと説明します」と、無印良品を展開する良品計画 WEB事業部 WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長の川名常海氏は語る。

 企業が運営するWebサイトではあるが、単に提供者側の情報伝達の場とは考えていない。ブランドの考え方の共有を目的とし、顧客との相互理解を深めるコミュニケーションを日々繰り返している。

2万8000人のファンが300万回プレイ

 売上向上を目指すマーケティング活動においても、顧客とのコミュニケーション重視の姿勢は変わらない。最近実施した「MUJI 福 CURRY スゴロク」キャンペーンでは、Webサイト上にすごろくゲームを用意。すごろくで遊んだユーザーにカレーのクーポン1万枚を発行して、店舗送客を図る試みだ。

 キャンペーンは、店舗への誘導、売上の増加にも貢献する一方、コミュニケーションという面で見ても、2万8000人のユーザーが合計300万回プレイするなど、良好な結果を残した。

 1人当たりが30分程度遊んだ計算になり、最も長く利用したファンは17時間もこのゲームに費やしたという。従来の広告では、顧客にこれだけの時間を使ってもらうことは難しい。「だからこそ、無印良品の体験を提供し、確実な接点を持てたことに価値を感じています」と川名氏は話す。

 消費者の要望に耳をすませ、顧客との「声のキャッチボール」に最大の努力を払う無印良品。現在、多数のファン、フォロワーを誇るソーシャルメディアの活用においても、その考えは一貫している。