「無印良品」はFacebookとTwitterだけで、100万人以上のファンを抱えるブランド。企業のソーシャル活用における代表例とも言える存在だ。それでもソーシャルメディアを「会話の場」と捉え、ユーザー尊重のスタンスを貫く。
ソーシャルメディアでは“招待された”と考える
無印良品は、商品の企画、製造、販売まで行うSPA(製造小売り)。取り扱うアイテムもスキンケア、靴下から家具、住宅までと幅広く、7000点を超える。これらの多数の商品をユーザーに購入してもらうために、彼らが何より大事だと考えているのが、顧客とのコミュニケーションである。
それゆえ無印良品では、ソーシャルメディアも「会話する場」と捉えている。「仲良しの集まりに“招待された”と理解しています。気の置けない人たちばかりの場所ですから、いくら我々が企業だからと、急に商品の宣伝を始めても受け入れられないでしょう」と良品計画 WEB事業部 WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長の川名常海氏は強調する。
「会話する場」に人が集まるのは、コミュニケーションを楽しむためで、企業が販促活動を行うには適さない。無印良品が投稿する際に意識しているのは、内容はもちろん、ユーザーとの距離感。近づきすぎず、遠巻きにもならない距離として「握手するくらいの距離」を保つ。
BtoCの関係性も変化を見せ始めている。ソーシャルメディアの浸透により、企業と顧客のつながりは、よりフラットになっているからだ。「対等の関係、コミュニケーションですから、格好をつける必要もないですし、嘘をつかないことが重要です」(川名氏)。
Facebook導入もコミュニケーション促進のため
今でこそ、ソーシャルメディアは生活に欠かせないインフラとも言えるが、登場し始めた当時、日本ではまだまだ小さなムーブメントであった。それでも無印良品は、新しいツールを活用することで、これまで以上にコミュニケーションを加速させる可能性があると考えたという。
導入を決めた頃、Facebookの国内ユーザー数は100万程度に過ぎなかった。「プラットフォームとして、規模は決して大きくありませんでした。ですが、コミュニケーションが広がる仕組みを持つ点を評価し、採用に踏み切りました」と川名氏は説明する。
今や、無印良品のFacebookページには約82万のファンが集まり、Twitterのフォロワー数も約19万を数えるまでになった(2012年10月現在)。こうした日本有数のファン数を誇る無印良品にとって、ソーシャルメディアは不可欠な存在なのだろうか。
顧客との会話を重視するブランドとして、ソーシャルメディアによってコミュニケーションの機会や経路が増えたのは事実。だが、無印良品には店舗があり、Webサイトがあり、様々なプロモーションがある。企業全体で見れば、いくつもあるコミュニケーション施策の一部だと言い切る。
他企業のソーシャルメディア活用についても、「どのようなコミュニケーションを取りたいのか決まっていないのであれば、無理に使う必要はないでしょう」と川名氏は話す。ツールありき、市場動向ありきでマーケティング手法を決めない姿勢は、地道なコミュニケーションがブランドの源流である無印良品の本質をよく表している。