<意味>
消費行動プロセスモデルとして、古くは「AIDMA」、インターネット登場後には「AISAS」が挙げられてきた。「SIPS」は、昨今のソーシャルメディアの広がりに対応した新たな消費行動プロセスモデルだ。
ソーシャルメディアの急速な普及によって、消費者の消費行動プロセスは「Sympathize(共感する)」、「Identify(確認する)」、「Participate(参加する)」、「Share&Spread(共有・拡散する)」という順に変化するとした考え方である。
<解説>
先述の通り、2011年1月に電通の「サトナオ・オープン・ラボ」(当時)がSIPSを発表するまでは、AIDMAとAISASという2つのモデルによって、消費行動のプロセスが説明されていた。
AIDMAは、1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホールが提唱。広告宣伝によって消費者は注意喚起され、商品を理解し、購買に至るという心理の動きをモデル化したものだ。「Attention(注意)」、「Interest(興味)」、「Desire(欲求)」、「Memory(記憶連想)」、「Action(行動)」という5段階で構成される。
商品購入がゴールになるため、どれだけ多くの消費者を次のプロセスに進ませるかが重要なポイントになる。それだけに、大勢にアプローチできるマス広告が大きな効力を持つ。マスメディアを中心とした施策や工夫を図る上で、役立つ消費行動プロセスだ。
AISASは、インターネット時代の消費行動プロセスモデルとして電通が提唱したもの。最大の特徴は、ネットを利用した情報の収集、共有を重視する点である。「Attention(注意)」、「Interest(興味)」、「Search(検索)」、「Action(行動)」、「Share(共有)」という5つのプロセスがある。
商品に興味を持った消費者は、購入前の行動として、価格情報や口コミなど様々な情報を集めようと「Search(検索)」を行う。さらに、購入後の評価を、第三者へ発信して「Share(共有)」する。これが新たな「Attention(注意)」につながるため、プロセス自体がサイクルを描く循環的なモデルである。
SIPSは、従来のAIDMAやAISASをすべて塗り替える行動プロセスではなく、ソーシャルメディアの浸透を契機に、消費者における情報の取得経路や消費への動機づけが変容している点に注目した“もう1つのモデル”と言えよう。
ただし近頃は、「ある情報を最初に見たのはソーシャルメディア」という機会が増えているのも事実だ。消費の起点も従来の「Attention(注意)」から「Sympathize(共感する)」に移る傾向がある。
また、これまで購入を意味した「Action(行動)」は、「Participate(参加する)」に置き換わっている。これは、購買行動がなくなるというよりも、購入の意味が「企業活動へ参加する」といった意識に近づきつつあることを示したものだ。
こうした点を踏まえると、SIPSは単に消費に関するプロセスの変容を言い当てているだけではなく、消費のあり方そのものや、消費者の社会意識の変化も指摘したと考えられる。企業においても、これらの状況を十分理解した上で、マーケティングやコミュニケーション施策を実施することが欠かせなくなってきている。