【コンテンツマーケティングの“新”常識】「属性」より「意識」でターゲットを探す


企業マーケティングにおいて、コンテンツの重要性が高まっている。特に、広告の大量露出による宣伝と縁遠かったBtoB企業にとって、“自前コンテンツ”の活用は最適なマーケティング手法と言える。ただし、問題になるのが、顧客に受け入れられるコンテンツをいかにつくり出すか。マーケティング担当者はコンテンツ制作の専門家ではないため、新たな悩みの種になっているようだ。

宣伝手法に悩んできたBtoB企業に救い

企業自らがコンテンツを編集、制作し、顧客とのコミュニケーションを図る「コンテンツマーケティング」。新規開拓や販売促進が見込める新しいマーケティング手法として、多くの企業が注目している。2012年を境に、インターネット上でもキーワードが検索され始め、注目度の高まりに比例して、日を追うごとに検索回数も増加しているようだ。

特にBtoB企業では、商品やサービスの利用者が一般消費者ではないため、テレビCMのようなマス広告を利用した大量投下型のマーケティングは採用しづらかった。だからと言って、自分たちが広告を出稿すべき媒体を探すと、なかなか適したものが見つからない。企業向け商材は費用対効果などからも、既存のメディア環境では広告、宣伝が容易ではなく、マーケティングにおける大きな課題となっていた。

そんな苦労をしてきたBtoB企業にとって、「渡りに船」と言えるのがコンテンツマーケティングだ。急激な認知度向上は期待しにくいものの、オウンドメディアなどにコンテンツを掲載すれば、Webの検索エンジンやソーシャルメディアなどから自社の商品やサービスを、顧客候補が自発的に見つけてくれる可能性が高まる。顧客自らが、インバウンドでやって来てくれるのだ

また、情報発信をコンテンツの形式にすることで、市場やソリューションに関して詳細な説明、解説もしやすいため、合理的に自社の価値を明示できる点も特長である。企業向けの商品、サービスは概して単価が高いこともあって、ロジカルな営業が適しており、コンテンツマーケティングと相性がよく、メリットの多い手法と言える。

共通の課題は「よいコンテンツが分からない」

実際、BtoB企業に訪問すると、自社のWebサイトなどへの掲載を念頭に、「当社を知ってもらうため、もっと情報発信したい」「営業に役立つコンテンツをつくりたい」という声を聞くことが少なくなかった。コンテンツマーケティングへの意欲は、日々ビジネスを動かしている現場でも高いというのが実感である。

現場が盛り上がる中、既に取り組みを始めた企業もあったし、これから始めたいと考えている企業もあった。コンテンツマーケティングの進展具合で言えば千差万別、企業によってそれぞれの状況である。ただ、マーケティング担当者に共通する悩みは、「どのようなコンテンツをつくればよいか分からない」というものだ。

確かに「さあ、自社コンテンツをつくりましょう」と言われても、マーケティング担当者はディレクターや編集者ではないため、どのようなコンテンツなら受け手(想定顧客)に響き、喜んでもらえるのか、判断に迷うかもしれない。ましてやコンテンツマーケティングのため、新たにオウンドメディアを設計、構築するなど、話が大がかりになれば、気後れする場合もあるだろう。

同じ部門でも企業によって事情は色々

改めて言うまでもないだろうが、マーケティングでは「ターゲットを絞る」のが常道だ。想定顧客を漠然とさせたままではなく、具体化させてから施策を実行する必要がある。当然、コンテンツマーケティングにおいても、それは同じ。ターゲットを明確にした上で、受け手に合ったコンテンツの準備が不可欠になる。

とは言え、気をつけてもらいたいのが、「当社のお客さんは製造業」「IT技術者向けのコンテンツが必要」といった“属性”中心のターゲティングだ。もちろん、属性は想定顧客を絞り込むための一要素となるが、業種や所属部門の情報だけでは、受け手に喜ばれるコンテンツの作成、ストーリーのつくり込みは困難なのである。

例えば、あるクラウドサービスの販促施策として、IT技術者向けに何らかのコンテンツを提供する場合を想定してみよう。技術者向けだから、テクノロジーを切り口にしたコンテンツということはすぐに決められるかもしれない。「しかし」――である。

技術者にクラウドサービスをアピールするにしても、今まさに導入を検討している情報システム部門のAさんと、クラウドを必要だとあまり感じていない情報システム部門のBさんとでは、コンテンツで伝えるべきメッセージや内容は大きく変わってくるはずだ。導入検討中のAさんに、クラウド技術の概要やメリットを訴えても「何を今さら」だろうし、必要性を感じていないBさんに、クラウドサービスの具体的なスペックや導入事例を示しても的外れになる。

コンテンツは「意識」に焦点を当てる

情報システム部門であれ、総務部門や営業部門であれ、所属部門(属性)によって、その人が会社で果たすべき役割は分かる。だが、社内の実情や業務の具体的なステータスまでは導き出せない。システム導入のきっかけに関しても、「経営トップによる鶴の一言」「利用部門からの自発的提案」という例は少なくない。ITシステムであっても、売り込み先は情報システム部門に限らないのが現実だ。

だからこそ、お勧めするのは顧客になってほしい人たちの意識や気持ちにフォーカスすること。気持ちなどと言うと、少しBtoBマーケティングにそぐわないように聞こえるかもしれない。要は、将来顧客になる人は今どのようなビジネス上の意識にあり、何に困っているかという気持ちを客観的に考え、そこからコンテンツを立ち上げてほしいのである。

ただし、にわかに想定顧客の意識なんて分からないという場合もあるだろう。そのときは、市場調査や顧客満足度調査といったリサーチの結果が活用できる。マーケティング担当者の思い込みや、提供者側の都合だけでコンテンツ内容を決めてしまうのではなく、調査データや第三者の冷静な視点を取り入れたい。

リサーチの実施がコストや時間的に難しければ、営業担当者に成約しやすい顧客の状況をヒアリングしてみるのでもよい。手段はどうであれ、想定顧客の部門や一般的な役割だけでなく、業務における具体的な課題、困りごとを理解し、それにそったコンテンツでアピールすべきである。

クラウド検討中のAさんに向けてであれば、「運用コストの低減」「変化対応へのスピード」など、クラウドに求める期待や要望をコンテンツに盛り込む。必要性を感じていないBさん向けには、「従来型システムとの比較」「導入しないことによるデメリット」といった内容で、クラウド利用の啓蒙を図るコンテンツに仕上げる、といった格好だ。

“変化する顧客”を追いかけるには?

近年、顧客データの分析に注目が集まっているが、仮に顧客リストに膨大な履歴情報がため込まれているとしても、その時々の顧客の具体的な状況を解析し、マーケティング施策をマッチさせるのは容易ではない。意識は言語化されない場合も多く、チェックボタンを選択してシステムに登録するわけでもない。

ところが意識を想定して作ったコンテンツであれば、受け手が自ら選択するという形で、その潜在意識まで具現化させてくれることがある。とある夜、ムシャクシャするからDVDを借りて泣ける映画を見る、ラブストーリーを見るというように、その人自身が明確にできない欲求であっても、コンテンツが存在することで結果的に「見える化」されるのだ。

意識によるターゲティングの効用は、もう1つある。意識は変わる可能性が高く、頻度も多い。クラウド不要論のBさんも、何かのシステムトラブルを経験したり、上司から検討を命じられれば、クラウド導入について調査し始めるかもしれない。所属部門(属性)は変わらずとも、ビジネスニーズだけが変わった。こんなことは、実際によくあることだろう。

顧客の要望が変わっていく様子は本来「見えない事象」であるが、それがとらえられるとしたら、ビジネスチャンスそのものと言える。こうした“変化する顧客”に対応できるのも、コンテンツの強みだ。

既にコンテンツマーケティングを実践しているのであれば、想定顧客の変化に先回りして、今後生まれるであろう意識や気持ちに即したコンテンツを前もって用意しておく。そうすれば、きっとその人自身によって見つけてもらえる。仮に今は、そんな意識や気持ちでなかったとしてもいつか気が変わったとき、コンテンツがあなたに代わって顧客を連れてきてくれるのである。


【気になるマーケティング用語】SoLoMo


<意味>
Social(ソーシャル)、Local(ローカル)、Mobile(モバイル)の3語を組み合わせた造語。昨今、利用者を伸ばす先進的なサービスの要素を、端的にまとめたものとも言えよう。ベンチャーキャピタル(VC)の米クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ(KPCB)のパートナー、ジョン・ドーア氏が提唱したことで注目された。

スマートフォンに代表される高機能なモバイルデバイスの普及を背景に、個人の位置情報を容易に取得できるようになったことや、ソーシャルメディア利用者の急増などによって、新たなマーケティングの考え方として期待が集まっている。

<解説>
企業がSoLoMoに可能性を感じる一番の要因は、Webやソーシャルメディアを介して、顧客(潜在顧客)と店舗やブランドを直接的につなげられる点にある。

例えば、Facebookのチェックイン機能や投稿によって、ある店舗やブランドについての情報が、発信したユーザーのソーシャルグラフに拡散される。これはリアルな経験のシェアとなるため、企業発の告知などよりも真実味の高い情報ととらえられ、エンゲージメント向上に貢献する。

ソーシャルメディア上にある居住地や趣味の情報を分析すれば、個人の嗜好に沿った確度の高いターゲティングもできる。また、ある場所に近いユーザーだけに情報発信するといった施策など、これまでのマス広告やデジタルマーケティングだけでは、実現しないものだ。

<課題>
SoLoMoが本格化により、一人ひとりのユーザーから取得できる情報量が膨大になったことや、オンライン(ソーシャルメディア)とオフライン(店舗)との密接な連動が可能になっている点が、従来環境との大きな違いである。

「解析すべきデータが増える」「シームレスな施策が要求される」など高度化する面もあるが、パーソナライズした情報を提供して、顧客ニーズに適ったマーケティングが実施できるのが最大のメリット。こうした従来からの変化にどう対応し、どう生かすかが、今後企業の課題だと言える。


【気になるマーケティング用語】トリプルメディア


<意味>
トリプルメディアは、企業マーケティングにおいて核となる3つのメディアを整理したフレームワーク。3つのメディアとは、「ペイドメディア(Paid Media:買うメディア)」、「オウンドメディア(Owned Media:所有するメディア)」、「アーンドメディア(Earned Media:信用や評判を得るメディア)」である。

従来デジタルメディアは、マスメディアに対立するものとしてとらえられることが多かった。このフレームワークでは、マス広告をペイドメディアの1つとして考え、3つのメディアの有機的な連携を、マーケティングコミュニケーションの基本としたところに大きな意味がある。

<解説>
ペイドメディアは、費用を支払うことで利用できるメディア。主に、マス4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)やバナー広告などが分類される。時に高額なコスト負担を伴うものではあるが、短期間で不特定多数のユーザーへアクセスし、企業の意思通りに訴求できるのが一番のメリットだ。

オウンドメディアは、企業自らが管理、運営し、情報発信するメディア。自社が所有するWebサイトやメールマガジンなどを指す。自社のメディアであるため、コントロールしやすいのが長所。一方で、情報発信の対象は既存顧客が中心となり、新規顧客の候補となる潜在顧客など、非顧客とコミュニケーションが取りづらいのが欠点である。

アーンドメディアは、先述の通り、ユーザーからの信用や評判を得るためのメディア。ブログやソーシャルメディアといったCGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)が、これに当たる。積極的に活用しようとする企業も少なくないが、ユーザー主導のメディアのため、思い通りにコントロールできない点は注意が必要になる。

<展望>
Twitter、Facebookなどのソーシャルメディアを通して、ユーザー自らが発信する情報が日々増加していることもあり、今後カギとなるのはアーンドメディアだろう。全体の設計としては、ユーザーをペイドメディアの露出によってオウンドメディアに誘導し、そこで提供した情報を基にアーンドメディアでの発言を促すのが一般的である。

最近では、このトリプルメディアにとどまらず、店舗などを加えてマーケティング活動を行う企業も出てきている。実店舗を、いわば“4つ目のメディア”としてとらえた取り組みだ。インターネットのみの施策よりも大きな収益が期待でき、投資対効果がより明確になる。O2O(オー・ツー・オー)マーケティングが注目を集めるのも、こうしたことが背景にある。

 
◎関連マーケティング用語:「O2O(オー・ツー・オー)」
O2Oは、オンライン・ツー・オフラインの略。オンライン(インターネット)での活動を、オフラインである実店舗などへ誘導し、購買行動につなげる考え方だ。インターネットと実店舗の連携は以前から存在しており、2000年頃には「クリック・アンド・モルタル」と呼ばれた。近年、システム連携の高度化やモバイル端末の進化にともない、O2Oとして新たに脚光を浴びている。⇒続きはコチラ