天神山の記憶(9)【フジロックGO #0027】


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レッド・ホット・チリ・ペッパーズの演奏が終わると、静かになった。もちろん、多くの聴衆が移動したりしていたのだと思うが、アタクシたちのテントは斜面のかなり上の方で、ステージからは距離があったからだ。ライブがなければ、もう何もすることはない。雨の中、出歩くわけにもいかず、アタクシたちは寝袋にくるまって寝るしかなかった。

しばらくして、ウトウトし始めたころだっただろうか、自分たちのテントを照らす明かりが近づいてきた。「誰だろう、こんな雨降りの中やってくるのは?」と思いつつ、明らかに自分たちのテントに用がある感じだったので、ジッパーを開けると、フジロックのスタッフのようで、「ここはテント張るところじゃないので、移動してください」と言われた。あまりに予想外な言葉に、「あ、はい」とだけ答えて、テントの中に戻った。そして、すぐにその光は遠ざかっていった。

「この雨の中、わざわざテントを移動させる?」「移動って、どこに?」――。疑問符ばかりが頭に浮かんだが、友人と少し話し合って、スタッフの発言はやり過ごすことにした。もし言われた通り、ここから移動したら、さらに持ち物がずぶ濡れになってしまうし、実際移動する体力も残っていなかった。

結局、スタッフの人たちも形式的な巡回だったのか、移動してくださいと言われたのは一度だけ。その後は誰も来ないまま夜は過ぎていった。後々、会場のある天神山は台風が直撃したと聞いたが、夜を通してそれほど強い風が吹いていたという記憶はない。たまたま場所に恵まれただけなのかもしれないが。