【気になるマーケティング用語】リードジェネレーション


<意味>
リードジェネレーションを簡潔に表現すれば、見込み顧客を獲得すること。自社の商品やサービスに興味、関心を示しそうな個人や企業に焦点を絞り、情報提供や提案をして成約につなげる活動全般を指すこともある。

広い意味でとらえると、前回紹介した「ナーチャリング」とほぼ同義とも言えるが、一般的には見込み顧客にアプローチするための個人情報取得が中心になる。個人情報の入手経路は、資料請求、展示会やイベントへの参加、アンケート回答、会員登録など、基本的に問わない。

< 解説>
ただ最近では、ユーザーが何かの商品購入を検討する際、インターネット検索が最初の手段になっていることや、インタラクティブ性があり、その場で個人情報をリスト化できるといったことから、Webサイトでリードジェネレーションを実施する企業が増えている。

特にBtoB企業、BtoCでも高額商品を扱う企業は、マスメディアなどを利用して不特定多数へアピールするよりも、見込み顧客の個人情報を取得して、確度の高い相手に対してダイレクトにマーケティング活動を行った方が効率的になる。

一方、ユーザーに個人情報を提供してもらうという点で言えば、見込み顧客といえども、何らかの具体的なメリットがなければ開示したくないと考えるもの。そのため、オンライン上で行われるリードジェネレーション施策では、PDF資料やコンテンツの後半を提供する代わりに個人情報を取得する例が多く見られる。

ここで注意すべきなのは、あくまで見込み顧客は“非顧客”であること。企業が言いたいだけの情報や宣伝文句を提示しただけでは、購入前のユーザーにとってメリットを感じづらいのが実情だ。顧客になる個人や企業にとって、どのような情報が役立つかを真摯に考えることが不可欠になる。

<課題>
リードジェネレーションの最終的な目的は、「見込み顧客(非顧客)の顧客化」。それでも、見込み顧客の獲得を意識しすぎて、“リード数”の増加ばかりに注力する場合が少なくない。事前の想定数に達していないからと、必要以上に露出を増やしたり、商材とは関連性の薄いプレゼントで関心を引いて、見込み顧客リストの“数合わせ”をしてしまうのだ。

しかしながら、こうした対策によっていくらリード数が増えたとしても、単にプレゼントが欲しかっただけなど、見込みの度合は低くなりがちである。実際に営業活動を行ったところで、顧客化するのは難しく、コストばかりかさむ結果が見込まれる。

重視すべきは、リード獲得施策からクロージングまでの“文脈”だ。興味、関心を持ちそうな見込み顧客に絞ってマーケティングを行うという、リードジェネレーションの原点に立ち戻り、一連の導線においてコンテクストを通底させることが大切である。マーケティング活動の全般にストーリーがあれば、ユーザーの態度変容も起こりやすくなるだろう。

 
◎関連マーケティング用語:「ナーチャリング」
ナーチャリングは見込み顧客を、有望な見込み顧客へと育成するマーケティング手法である。見込み顧客を指す「Lead(リード)」という言葉も含めて、「リードナーチャリング」と呼ばれることも多い。オンラインを中心に、見込み顧客に対して多様な情報を提供。自社の商品やサービスに関心を持ってもらい、購入、契約へとつなげるのが狙いだ。⇒続きはコチラ


【気になるマーケティング用語】ナーチャリング


<意味>
英語の「nurture」は、養育する、育成するといった意味。ナーチャリングは見込み顧客を、有望な見込み顧客へと育成するマーケティング手法である。見込み顧客を指す「Lead(リード)」という言葉も含めて、「リードナーチャリング」と呼ばれることも多い。

オンラインを中心に、見込み顧客に対して多様な情報を提供。自社の商品やサービスに関心を持ってもらい、購入、契約へとつなげるのが狙いだ。特にBtoB商材では、単価が高く、購入決定までに長期間を要するため、商談率や成約率を高めづらい実情がある。こうした問題を解消しようと、ナーチャリングに取り組む企業が増えている。

<解説>
企業や商材によって、条件、環境は様々であるため、決まった手順があるわけではない。自社サイトでの資料ダウンロードなどから、見込み顧客の個人情報を取得してリスト化。Webサイトやメールマガジンなどのコンテンツによって、ユーザーのマインドを醸成し、有望な見込み顧客へと転換を図る例が多いようだ。

より具体的には、各コンテンツやユーザーの行動にポイントを設定し、見込み顧客が実際にどのような情報にアクセスしたかなどを集計、スコアリングする。このスコアによって、購入意向やニーズの度合いを把握できる。たくさんの情報に触れて、多くのポイントを獲得しているユーザーは確度が高いと判定するのだ。その後、営業部門などが直接訪問したり、販売促進活動を行う。

この手法で重要になるのが、Webサイトなどで展開するコンテンツの内容や導線などの全体設計である。様々なユーザーの状態やニーズに合わせて、まずは複数のコンテンツを用意しなければならない。さらに、それらのコンテンツをどのような順番、タイミングで見てもらうのか、各コンテンツにどれくらいのポイントを付与するのか、全体構成を踏まえた“ストーリー作り”が不可欠となる。

<課題>
ただし、“ストーリー作り”と一口で言うものの、実態はオンライン化された営業活動を新たに設計し、構築することに等しい。デジタルマーケティングに詳しいのはもちろん、顧客心理を含むユーザー理解、現場でも有効な営業ノウハウなど、要求される知見は多岐にわたる。

そのため実践に当たっては、「ナーチャリングを企画、実施できる人材がいない」という大きな課題がある。取り組んだ当初は、失敗するのが当たり前くらいに考え、トライ&エラーを繰り返しながら徐々に精度を上げる方が、むしろ成功への近道であろう。すぐに多数の有望顧客を獲得しようと焦り、短期的な効果を追い求めるべきではない。


【気になるマーケティング用語】ブランド・エクイティ


<意味>
ブランドが持つ資産価値のことを指す。ブランドは単なる名前や記号ではなく、信頼感や知名度など、無形でありながらも価値を有している。これらを、企業の資産として評価しようという考え方だ。

『ブランド・エクイティ戦略』の著書であるデイヴィット・A・アーカー氏が提唱。同氏は、ブランド・エクイティの構成要素として5つを挙げている。

(1)ブランド・ロイヤリティ(ブランドへの忠誠心、気に入っている度合)、(2)ブランド認知(ブランド名の認知度)、(3)知覚品質(消費者が理解している品質)、(4)ブランド連想(ブランドに対する心理的・感情的な連想、イメージ)、(5)その他の資産(特許や商標や流通関係など)、である。

<解説>
ソーシャルメディアを利用する目的の1つとして、「ブランディング」を挙げる例は多く、企業はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をブランドの資産価値を上げるツールと捉えている面もある。

だが実際には、そもそもブランド・エクイティが低い企業は、ソーシャルメディア上でもファンやフォロワーが付きにくく、反応もよくない。一方、高い企業はその逆だ。SNSを通じて、ブランド・エクイティやブランド・アイデンティティの現状が顕在化していると言えるだろう。

実際の企業活動においても、認知やロイヤリティが高いブランドであれば、販売促進活動に使われるマーケティング・コストは低く抑えられる。競合他社などと比較して、品質に対する信頼感が強ければ、市場において価格決定権を持ち、高く値付けできる。

高いブランド・エクイティには、具体的なメリットも多く、企業の競争優位性に直結している。しかも、消費者が持つ品質のイメージやブランド連想は、購入者の安心感や使用満足度の向上につながり、企業だけでなくユーザーに対しても価値を提供することになる。

<課題>
資産価値を定性的にではなく、定量的に評価するには、それぞれの構成要素を数値化する必要がある。各構成要素の数値化や複数の構成要素を1つにまとめることは難しいため、ブランド・エクイティの数値化は非常に困難なのが実情だ。

数値化の現実的な方法として、ブランド・ロイヤリティなどの構成要素を評価するアンケート調査などがある。しかし、アンケート調査を基に各要素を定量化しても、その数値を「金額」に換算できないため、資産価値として検証できないという課題がある。

ブランド・エクイティは数値化が必須というわけではない。資産として金銭や土地、建物を管理するように、「ブランドは資産である」という考え方を持って、それを高める努力が重要なのである。


【気になるマーケティング用語】CSV


<意味>
「Creating Shared Value」の略。環境問題や貧富の格差といった社会問題の解決と、企業自身の事業に関する利益や競争力の向上を両立させようとする経営コンセプト。「共通価値の創造」「共益の創造」などと訳される。

企業戦略論の第一人者として知られる、米ハーバード大学教授のマイケル・E・ポーター氏が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の2011年1月・2月合併号に共著で発表した論文『Creating Shared Value』で提唱した。同氏が2006年の論文で言及した「戦略的CSR」を、さらに発展させた考え方である。

<解説>
CSR(企業の社会的責任)との対比で語られることが大半であるが、CSRのように目的を社会貢献に絞るのではなく、CSVでは企業が行う事業にとっても価値を生み出す活動でなければならない。資本主義の内実を変化させながら、利益を生み出していく企業活動とも言える。

企業においては、社会全体の問題を解決しようと努力することで、事業継続に有効な面がある。顧客や取引先など、多くのステークホルダーから評価を受ける上、利益を出し続けることで長期的な事業に育て上げ、企業を支えることにつながるからだ。

そもそもCSRは、企業活動によって生じた社会に対するマイナスの影響を、軽減させることが狙いである。結果として、企業イメージや評判は向上するかもしれないが、必ずしも社会全体をよくするわけではない。そのため、CSRの発想を進展させ、社会貢献と利益の双方を追求する必要性が浮上していた。

厳しい財政状況や突然の大災害、政情不安などから、国家や政府の力が限定的になっている世界の現実もCSV推進の後押しになっている。そうした社会情勢からも、企業は社会問題の解決に向けて、ますます積極的に行動していくことが求められているのだ。

<展望>
特に東日本大震災では、企業が物資や義援金などを単に送るのではなく、長期間にわたる炊き出しや一手間かけた物資提供など、自らの事業に根ざし、成長を見込んだ被災地支援も行われた。これは、社会貢献という“コスト”に事業で稼いだ利益を回すといった考え方から、競争力を磨く投資の場として考えられるようになった現われの1つだろう。

また、CSVは本来企業に適用される概念ではあるが、個人の視点に置き換えた「パーソナルCSV」というコンセプトも、これから広がる可能性がある。具体的には、ニーズのある個人同士を結ぶ相互的なネット上のサービス。「お使い」のようなちょっとした用事を頼みたい人と請け負いたい人を結ぶといったものだ。

こうした動きやサービスは、ソーシャルメディアとも親近性が高く、相性がよいため、今後新たなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)として展開されることも考えられる。


【気になるマーケティング用語】ステルスマーケティング


<意味>
ステルスマーケティングとは、商品やサービスの提供者が消費者に対してそれと気づかれないように、購入を促す広告や宣伝を行うこと。代表的なやり方は、店舗や商品に対する良い評価を、金銭の授受を伴って組織的にWebサイトに書き込んだり、発信したりするもの。口コミで人づてに情報を伝えるバイラルマーケティングを悪用した手法だと言える。「ステマ」と省略した形で言われることも多い。

「ステルス」と呼ばれるのは、消費者にとって広告や宣伝には見えないためだ。英語の「Stealth」は、「隠れる」「内密」「人目を忍んだ」といった意味。もともと軍用機や戦闘車両などが、敵のレーダーに探知されないように考案された軍事技術の総称でもある。

<解説>
“やらせ”や“サクラ”と考えれば、古くからある宣伝手法であり、決して新しい考え方ではない。ただし、昨今ではインターネットなどの普及によって、ネットワーク環境が整備されているため、人前に出ることなく、低コストで大量の情報を拡散できるようになった点が、以前とは違っている。

ステルスマーケティングという言葉の通り、秘密裏に実行されているとしたら、広告や宣伝であると気づきにくく、消費者は知らないうちに影響を受け、購入に至っている場合も少なくない。

一方で、情報提供者側がステマの嫌疑をかけられると、「ステマ企業」「ステマ芸能人」などと、ソーシャルメディア上で話題にされたり、真相を追及しようとする動きが活発になったりと、社会的な騒動になることもある。

最近、世間をにぎわした例で言えば、2012年1月に発覚した「食べログ」の件がある。飲食店の口コミ情報サイトである「食べログ」に、店舗の依頼を受けて好意的な口コミを投稿する業者の存在が明らかになった。不正な投稿の見返りとして金銭を支払う行為が、厳しい非難にさらされたのである。

<課題>
現状では、著しい虚偽の記述内容などがなければ、ステルスマーケティング自体を取り締まる法律はなく、法的な抑止や規制は期待できない。そうした意味では、マーケティングを行う企業や、広告を掲載するメディアなどの倫理観や自主規制、チェック機能に頼らざるを得ない面がある。

法規制の対象外とはいえ、ある調査によればこの手法について、消費者の大半が高い嫌悪感を見せている。それゆえ、ステマを行っていることが一度露見すれば、その内容次第では、企業ブランドはおろか経営自体を大きく毀損する可能性も否定できないだろう。いくら売上や利益に効果があったとしても、マーケティング手法として、選ぶべき選択肢とは言えないのだ。

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【気になるマーケティング用語】キュレーション


<意味>
もともとの語源は、博物館や美術館の展示物を決定したり、展覧会の企画を立案する「キュレーター(curator:日本語訳では学芸員)」である。キュレーターの仕事から転じて、インターネット上などにあふれる膨大な情報を整理し、新たな意味づけなどを行い、多くの人と共有することをキュレーションと呼ぶようになった。

断片的な情報をある切り口で束ねたり、これまで有効活用していなかった情報を精査して、新たな意義を見出したりするため、キュレーションは「編集」と言い換えられるだろう。編集行為であることからも、人手で情報を収集、整理することが前提となっている。検索エンジンを使い、記事などを機械的に抽出して集約する場合は「アグリゲーション」と言い分けることもある。

<解説>
情報量が加速度的に増えているのはインターネットだけでなく、企業の社内データでも同様だ。最近では、企業内に保存されている大量の情報を再編集して、ビジネスにおいて新たな活用法を見いだす行為にも、この言葉が用いられるようになってきた。インターネット上の用語と区別し、「リアルキュレーション」という呼称が使われる場合もあるようだ。

具体的には、いわゆる“売れ筋”ではないロングテール商品にスポットライトを当てることで、認知度の低い商品の価値を改めて訴求するといったことや、従来は使ってこなかった既存のデータを再度整理、収集し直し、新たな営業や企画の提案に活用するといった例がある。

また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の分野では、気に入った画像をクリップして共有する「Pinterest」がキュレーション系と位置づけられる。このサービスは、他サイトへのトラフィック誘導率が高いSNSだという調査結果もあり、ソーシャルメディアにおけるマーケティング促進の起爆剤になるかもしれないとの期待も大きい。

<課題>
昨今、ビッグデータという観点からも、マーケティング活動での情報活用が盛んに叫ばれている。そこで一番のネックになっているのが、「大量の情報を誰が分析するのか」ということ。仮に、情報処理が専門であるITベンダーにデータ分析を依頼したとしても、どのような視点で、どうやって処理するかまで、すべてを任せられるわけではない。

データ分析を最適化するうえでは、ビッグデータを分析する人、キュレーションを行う人が、データ処理に強いのはもちろん、自社の業務やビジネスモデルを深く理解している人物であることが欠かせない。つまり、IT(情報処理)とビジネスのどちらにも長けた人材だ。特にリアルキュレーションを企業が実践するには、まず人材の発掘、育成が急務と言えるだろう。


【気になるマーケティング用語】ゲーミフィケーション


<意味>
競争やレベルアップといったゲームならではの要素を、ビジネスやITサービス、情報システムに適用すること。利用者が使用する頻度を高めたり、マニュアルを見なくても操作できるようにするのが狙いだ。ゲーム性によってユーザーの興味関心を引き、継続的な利用や生産性向上を促す。

ゲーミフィケーションの概念自体は古くからあるものだが、米国で2010年に注目を集め始め、日本では2011年後半ころから一気に広がりを見せた。新たなキーワードとして、拡大した背景に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やライフログの普及がある。

<事例>
代表的なゲーミフィケーションの事例として、よく挙げられるのが「foursquare(フォースクエア)」と「Nike+(ナイキプラス)」である。

「foursquare」は位置情報の投稿を軸に、人とのコミュニケーションを図るSNS。利用者はスマートフォンのGPS機能を使って、自分が訪れた場所で「チェックイン」を行う。そのチェックインごとにポイントがたまり、同じ施設でのポイントが高まると「メイヤー(市長)」という称号を得られる。

利用者に具体的なメリットがあるわけではないが、ポイントや称号といった要素で、サービス利用を促進させている。

もう1つの「Nike+」は、ランニングの愛好家向けに提供されているサービスで、携帯音楽プレイヤーなどを使い、ユーザーの走行距離や時間、経路を記録するというもの。もともとは、ランニングに対する個人のモチベーションアップや記録用という意味合いが強かった。

ただ今では、「走る」という行為を通じて、国を問わず他の参加者とチームを組んだり、競い合ったりできるようになった。FacebookなどSNSと連携することで、ランナーの投稿に合わせ、Facebook上の友達から声援をもらうなど、様々なサービスや機能も提供されている。

<課題>
最近では、自社サイトやプロモーションにゲーミフィケーションを採用するケースも増えた。しかしながら、ユーザーの行動に対してポイントをつけるだけといった、安易な導入、運用で失敗するケースも少なくない。口コミサイトで投稿がポイント目的になり、クオリティが低下し、サービス自体の品質を担保できなくなるといった例だ。

このように、本来のビジネス、サービスとゲーム性とのバランスが難しい。また、ユーザーもしばらくは使うが、段々と飽きやすくなるというように、中長期的に利用し続けてもらうことは簡単ではない。そのため、単純にゲーム的要素のあるサービスを投入するだけでなく、運用開始後に利用状況を検証し、チューニングを施す、新しい機能を追加するなど、PDCAを継続的に実施していくことが欠かせないだろう。


【気になるマーケティング用語】サブスクリプションコマース


<意味>
サブスクリプションコマースは、毎月一定の金額を支払うと、特定の商品が定期的に届くサービス。端的な表現で言えば、定期購入のことである。昨今、アメリカで注目を集めていることもあり、日本でも脚光を浴びるようになってきた。

考え方自体は決して新しいものではなく、通信販売でよく実施されてきた「頒布会」も同様の手法だ。そのほか水やサプリメントの宅配や雑誌の定期購読なども、サブスクリプションコマースの1つと言え、以前から頻繁に行われてきた販売方法である。

<解説>
こうした手法が改めて見直されている背景に、市場に商品があふれている状況がある。消費者にとって商品の選択肢は膨大になっており、商品情報を収集、整理するだけで多大な労力を伴う。特に多忙を極めるビジネスパーソンなどにとっては、商品を買うための作業が負担になり、消費行動が鈍化する要因になっている。

サブスクリプションコマースであれば、消費者自身がいちいち商品を選択する必要はなく、買い物に出かける手間もかからない。半ば自動的に自分のほしいものが手に入る。提供コストを抑えやすいこともあり、商品に対して値ごろ感、割安感を感じる場合も少なくない。

提供する事業者にとっても、メリットがある。「顧客を長期的に囲い込み、安定的な売上が見込める」、「商品の販売数も予測が立ちやすく、在庫リスクが軽減される」、「一回の購入ごとに対応するわけではないため、オペレーションコストを抑制できる」などが挙げられる。

<課題>
最近のサブスクリプションコマースでは、先述した水の宅配のように同じ商品を定期的に届けるというよりも、事業者があるカテゴリーの中で、その都度送る商品を選ぶ例が多い。そのため消費者における定期購入の付加価値は、便利、手ごろだけでなく、どれだけ気の効いたセレクトをしてもらえるかに重点が移ってきている。つまり、提供者側に商品を“目利き”する能力が問われているのだ。

こういった点を踏まえると、提供者は商品に対する専門性を持っていることはもちろん、社会のトレンドや顧客の好みなど、多面的に商品を企画する必要が出てくる。商品を受け取ったときや使ってみたときの印象、実感が重視されるため、ユーザーの生活シーンを考慮し、どのような体験を演出できるかのという、顧客目線での商品企画が欠かせなくなるだろう。


【気になるマーケティング用語】Fコマース


<意味>
Fコマースとは、Facebook上で行われるEC(電子商取引)のこと。Facebookページやニュースフィード、決済機能をはじめ、「いいね!ボタン」といったソーシャルプラグイン(追加機能)などをプラットフォームとして使う。Facebookを活用した販売促進の活動を含めて、Fコマースと呼ぶことも多い。

「ソーシャルコマース」という言葉もある。ECや販促にソーシャルメディアを利用することを言い、その中でFacebookに限定して用いられるのがFコマースである。

<解説>
オンラインで買い物をするECサイトは、既に多く存在している。では、なぜFコマースが登場し、期待が寄せられているのか。サービスを提供する企業が、ソーシャルグラフ(利用者同士の交友関係情報)を利用したプロモーションなど、Facebookならではの口コミや伝播力に魅力を感じているからだ。

Facebookは、友達関係を軸とした人と人とのつながりで形成されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。Facebook上で店舗を運営していれば、商品に対する購入意欲の有無にかかわらず、人的関係性に基づいて人が集まりやすい環境にある。

ECサイトに訪れて、商品を購入するユーザーにとって重要なのは、品揃えの豊富さ、納品までのスピード、商品や送料の金額など、購入するための具体的なサービスや機能。それは商品購入へのモチベーションを十分に持っているためである。

しかし、「潜在顧客」のような購入意欲が顕在化していない顧客候補になると、購入検討はおろか、ECサイトへの来訪すら覚束ないのが実情だろう。Fコマースであれば、こうした層へアプローチでき、これまで開拓できなかった新規顧客の獲得や、効率的な集客を実現できる可能性がある。

<課題>
Fコマースの持つ潜在力に将来性を感じる企業がいる一方で、懐疑的に捉える企業もある。「Facebookなどソーシャルメディアはあくまで会話の場。モノを売る場ではないのだから、いくら多数の人がいても商品は買ってもらえない」。こうした意見が、Fコマースに疑問を持つ企業の代表的な見解ではないだろうか。

事実、Fコマースで成功した事例を聞く機会は少なく、市場全体としても活況を呈しているとは言えない状態。そうした意味では、Fコマースで新たな顧客を獲得し、マーケットを切り拓くのは決して容易ではない。

Facebook上に店舗を置きさえすれば、従来コミュニケーションできなかった顧客層が現れ、売上にも貢献すると考えるのは早計である。メリットとデメリットを十分に踏まえたうえで、Fコマースへどのように進出すべきか、あるいは進出しないのか、冷静な戦略が求められている。


【気になるマーケティング用語】O2O(オー・ツー・オー)


<意味>
O2Oは、オンライン・ツー・オフラインの略。オンライン(インターネット)での活動を、オフラインである実店舗などへ誘導し、購買行動につなげる考え方だ。インターネットと実店舗の連携は以前から存在しており、2000年頃には「クリック・アンド・モルタル」と呼ばれた。近年、システム連携の高度化やモバイル端末の進化にともない、O2Oとして新たに脚光を浴びている。

狭義では、オンラインからオフラインへの一方向を指し、実店舗で購入などの商取引が行われるのが前提となっている。しかし、昨今ではオフラインからオンラインへという逆の流れであったり、インターネット上のコミュニティで日々活動しながら、あるとき無料のイベントへ勧誘する例も、O2Oと称されることが少なくない。

<解説>
現在、O2Oが改めて注目を集める主な要因として、スマートフォンの急速な普及が挙げられる。どこにいてもインターネットに接続できるのはもちろん、ユーザーの現在地を把握できるGPS機能が搭載されている点が大きい。

具体的には、スマートフォンを持った利用者が店舗の近くを通ったとき、その場で割引クーポンを発行。ユーザーにとってもタイムリーな情報を提供し、これまで以上の集客を促すといった活用法だ。従来ではできなかったオンラインとオフラインの連動が、IT環境の進展により実現できるようになった。

位置情報を含む膨大な行動履歴や、インターネットでの購入情報などを蓄積し、掛け合わせて分析することで、精度の高い販促活動につなげようとする企業もある。いわゆる「ビッグデータ」の活用で、年齢、性別といった属性情報だけでない、趣味、嗜好を示す大量のデータを分析すれば、ユーザーの購入意欲や気分にかなった提案ができるようになる。

<課題>
スマートフォンは、様々な機能を実装できる高い処理能力を持つため、O2O施策として見ると、オンラインやオフラインで提供する個々のサービスは複雑なものになりがちだ。一企業の取り組みとしてではなく、複数企業の協業による連携システムもあれば、オンラインとオフラインを頻繁に行き来しなければならない仕組みもあるだろう。

オンラインからオフラインへという行程を考えても、ユーザー側と提供者側の関係性は長期化する。従来のように、店舗で消費、購入するポイントだけにサービスを集中すればよいわけではない。

O2O施策を、「一連の体験として顧客に提供する」と捉えれば、それぞれのサービス内容だけでなく、各場面でのインタフェース、対応の整合性など、十分に検討したうえで実施しなければ、実質的な集客効果や売上向上は簡単には見込めないだろう。