知里幸恵【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#160】


【6月8日】知里幸恵:1903.6.8~1922.9.18

その昔この広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました。天真爛漫な稚児の様に、美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は、真に自然の寵児、なんという幸福な人だちであったでしょう。
冬の陸には林野をおおう深雪を蹴って、天地を凍らす寒気を物ともせず山又山をふみ越えて熊を狩り、夏の海には涼風泳ぐみどりの波、白い鷗の歌を友に木の葉の様な小舟を浮ベてひねもす魚を漁りすなど、花咲く春は軟らかな陽の光を浴びて、永久に囀る小鳥と共に歌い暮して蕗とり蓬摘み、紅葉の秋は野分に穂揃うすすきをわけて、宵まで鮭とる篝も消え、谷間に友呼ぶ鹿の音を外に、円かな月に夢を結ぶ。嗚呼なんという楽しい生活でしょう。

『アイヌ神謡集』序、岩波文庫、1978年

【アタクシ的メモ】
知里幸恵について、テレビ番組で知った。なので、上記で書かれているのは、単なる昔はよかったということではではなく、民族の文化、同一性についての記述だと理解している。