すてる【捨てる】


「捨てる」と言うと、きっと悪いイメージしか持たないでしょう。物を捨てるなんて、もったいない。女性を捨てるとは、なんてひどい人。希望を捨てるのは、ああ絶望、というように。

若い年代の人は、物が豊富な時代に暮らしているので、何でも粗末にすると言われがちですが、まわりを見回してみると、老若男女問わず、案外みんな物を捨てないように思います。他人の私から見ていると、何が大切なのだろうと頭をひねるようなものでも、大事にしまっていたりします。

かく言う私も、ロックが好きなこともあり、高校生の頃から溜め込んだ 1500枚以上のCDを熱心に飾っては、大して聴きもしないものも多いのに、悦に入っている有様でした。あまり気に入らなかったものでも、一度購入したものは、なかなか捨てられなかったのです。

そのため私の部屋もご多分にもれず、大量のCDをはじめ、買ったのにずっと読まない本、読み終わったけど捨てない雑誌、何となく気に入らないのでほとんど着ないけど高かったので処分できない洋服などなど、たくさんの活用できていないモノであふれてしまっていました。

また、物理的な空間だけでなく、読んでいない本や雑誌、目を通すべき仕事の書類、そして毎日配信されるメールが、すぐには処理できないで溜まるばかりになっています。私ののろい頭では情報が有り余ってしまい、何が何だかわからなくなったりもしました。「豊かな生活を」と思って集めたモノによって、逆に混乱を招いてしまったわけです。

こんな状況で一大決心をしました。「とにかくいらないモノは捨てよう。シンプルな生活にしよう」と、私なりに心に誓ったのです。そうしないと、小さな部屋はモノに占領されてしまい、私の中に生じてしまった混乱や焦りも、消すことはきっと出来ないだろうと考えたからです。

まずはコレクション化して、ずっと手にも取らなかった雑誌を捨てました。読もうと思って買っただけの書籍も、古本屋に売りました。さらに、何となくずっと買い続けていただけのアーティストの CD も中古として処分しました。サイズがあっていない洋服、もう着なくなった洋服も、周りの人に譲ったりして、必要なものだけにしました。

いくら大きく決心していたとしても、捨てるということにもちろん罪悪感が起きましたし、中には思い出の品々もありましたから、簡単に捨てられたというわけではないのです。「えい」とばかり捨てたモノも多々あったのが実情です。

それでも、モノを捨てて自分の部屋が整理できてくると、すっきりと心地よい気持ちになりました。そして何より、残った本当に必要なモノが、どれだけ大事であったかわかったような気がしたのです。捨てたりして処分したモノは、山ではなく枯れ葉で、賑わいに過ぎなかったようです。

まだ使えるものであればなおさらでしょうが、やはりモノを捨ててしまうことは、もったいないことかもしれません。でも、モノは活かしてこそ、上手に使ってこそ、価値があると思うのです。生活の主役は、モノではなくヒトなのですから。

部屋はさっぱりとモノが少なくなり、それを出来るだけ維持しようと、今私は暮らしています。モノを買うときも、今まで以上に吟味して購入します。安いだけで使い道の不明確なモノは、もう買わないようにもしています。逆に、今までのモノを充分に手入れをしたり、大切に使ったりするようになりました。

「捨てる」と言うのは、一見モノを粗末にしている態度にも見えますが、捨て方によっては、よりモノを慈しむ行為、少なくともその過程に必要な行為に、私の経験からは思えるのです。