くつ【靴】


元来革製品が好きなせいもあって、革靴を買うということは、私にとってなかなかの一大事業であります。いわゆる“いい靴”は、それなりの値段がしますので、簡単に買い換えられません。「オシャレは足元から」とよく言いますし、「良い革靴は一生ものだ」などとも聞きますので、余計に力が入ってしまいます。

初めて革靴を購入したのは、確か高校に入学した頃でした。黒いプレーントゥ(つま先に何の飾りのないもの)を親に買ってもらったのです。当時は、靴との付き合い方も知らず、雨の日でも気にせず、毎日毎日履きつづけていました。手入れと言ってもほとんどせず、気が向いたときに靴墨をちょっと塗る程度でした。

そんな扱いでしたので、 3 年生になる頃には、よく曲がる甲の脇の部分に穴が空いてしまいました。見た目にもみすぼらしく、実質的にも砂が入ってしまったりと、靴として機能しなくなってしまったので、気に入ってはいましたが、その靴は処分することにしました。処分してからは、学生服にはスニーカーを合わせる方が、何となく格好よく感じたりもして、革靴と縁遠くなったまま卒業式を迎えました。

この後、私の革靴の扱い方に、いくつか問題があったことを知りました。革靴はできるだけ間隔をあけて履くこと。 3 ~4 足でローテーションを組んで履くのが望ましい。水にはできるだけ濡らさないようにすること。濡れた場合は、日陰などでゆっくりと確実に乾かすこと。油分が抜けていたら、クリームなどで補給してやること。靴墨を塗りすぎると革が呼吸できなくなるため、頻繁に塗らず、塗るときも薄く塗ること。そして、一度履いたらシューキーパー(シュートゥリー)などで靴自体を伸ばしてやること。このように、革靴は1つの生き物のような、デリケートなものだったのです。

20歳を向かえるに当たり、成人式用として革靴を買うことになりました。上のような知識を踏まえ、一生付き合える靴を、今度こそは買いたいと思い、私は真剣に靴を選びました。いくらきちんとしたメンテナンスで長持ちさせたとしても、時間が経ったら履けなくなるデザインや、デザイン自体を自分で気に入らなくなったりしては、元も子もありません。

さらに形だけでなく、材質や製法も慎重に検討して、オーソドックスな黒いカーフのプレーントウを、金額的にはちょっと無理をして購入しました。また、安い靴なら買えそうな値段だったので、大変迷いましたが、木製のシューキーパーも合わせて買いました。

大学生の頃は、革靴を頻繁に履く機会はなかったので、手入れも月に1、2度だけでしたが、会社に入り毎日履くようになってからは、何足か買い足して順繰りに履くようにしました。シューキーパーもそれぞれに用意して、履かないときはシューキーパーを入れ、革を伸ばしておきます。きちんと磨くようにもしていますし、油の補給にクリームも塗ってやります。

ですから、20歳に買った靴を筆頭に、どの革靴もずっと現役で履きつづけております。当然、靴底やかかとはすり減れば交換をしていますし、つま先を中心に結構な数の傷もあります。一足は、かかとの内側がすり減って革を張り替えもしました。それでも、アッパーの革はこちらの手入れを反映して、ピカピカと光っていますし、何より足を入れるとすっとフィットし、私の足を優しく受け入れてくれます。例えて言えば、幼馴染の親友と会話しているような、気楽な気持ちよさがあります。

最も長いものは 10 年以上履いてきたのですが、目ざとい方に「とてもきれいな靴だね」と言って頂けることも、いまだに少なくありません。そんな靴を眺めていると、私の気持ちや努力に応えてくれたように思え、感謝や愛着の気持ちが沸き起こってきます。

革靴は、もちろん1つのモノだとは思います。しかしながら、相手のことを理解し、相手のために働きかることで、より強く、より良い関係ができるように思えます。何よりこれらの靴たちは、私にとって長らく苦労をともにしてきた、かけがえのない友人みたいな存在なのです。