【気になるマーケティング用語】ブランド・エクイティ


<意味>
ブランドが持つ資産価値のことを指す。ブランドは単なる名前や記号ではなく、信頼感や知名度など、無形でありながらも価値を有している。これらを、企業の資産として評価しようという考え方だ。

『ブランド・エクイティ戦略』の著書であるデイヴィット・A・アーカー氏が提唱。同氏は、ブランド・エクイティの構成要素として5つを挙げている。

(1)ブランド・ロイヤリティ(ブランドへの忠誠心、気に入っている度合)、(2)ブランド認知(ブランド名の認知度)、(3)知覚品質(消費者が理解している品質)、(4)ブランド連想(ブランドに対する心理的・感情的な連想、イメージ)、(5)その他の資産(特許や商標や流通関係など)、である。

<解説>
ソーシャルメディアを利用する目的の1つとして、「ブランディング」を挙げる例は多く、企業はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をブランドの資産価値を上げるツールと捉えている面もある。

だが実際には、そもそもブランド・エクイティが低い企業は、ソーシャルメディア上でもファンやフォロワーが付きにくく、反応もよくない。一方、高い企業はその逆だ。SNSを通じて、ブランド・エクイティやブランド・アイデンティティの現状が顕在化していると言えるだろう。

実際の企業活動においても、認知やロイヤリティが高いブランドであれば、販売促進活動に使われるマーケティング・コストは低く抑えられる。競合他社などと比較して、品質に対する信頼感が強ければ、市場において価格決定権を持ち、高く値付けできる。

高いブランド・エクイティには、具体的なメリットも多く、企業の競争優位性に直結している。しかも、消費者が持つ品質のイメージやブランド連想は、購入者の安心感や使用満足度の向上につながり、企業だけでなくユーザーに対しても価値を提供することになる。

<課題>
資産価値を定性的にではなく、定量的に評価するには、それぞれの構成要素を数値化する必要がある。各構成要素の数値化や複数の構成要素を1つにまとめることは難しいため、ブランド・エクイティの数値化は非常に困難なのが実情だ。

数値化の現実的な方法として、ブランド・ロイヤリティなどの構成要素を評価するアンケート調査などがある。しかし、アンケート調査を基に各要素を定量化しても、その数値を「金額」に換算できないため、資産価値として検証できないという課題がある。

ブランド・エクイティは数値化が必須というわけではない。資産として金銭や土地、建物を管理するように、「ブランドは資産である」という考え方を持って、それを高める努力が重要なのである。


【気になるマーケティング用語】CSV


<意味>
「Creating Shared Value」の略。環境問題や貧富の格差といった社会問題の解決と、企業自身の事業に関する利益や競争力の向上を両立させようとする経営コンセプト。「共通価値の創造」「共益の創造」などと訳される。

企業戦略論の第一人者として知られる、米ハーバード大学教授のマイケル・E・ポーター氏が、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の2011年1月・2月合併号に共著で発表した論文『Creating Shared Value』で提唱した。同氏が2006年の論文で言及した「戦略的CSR」を、さらに発展させた考え方である。

<解説>
CSR(企業の社会的責任)との対比で語られることが大半であるが、CSRのように目的を社会貢献に絞るのではなく、CSVでは企業が行う事業にとっても価値を生み出す活動でなければならない。資本主義の内実を変化させながら、利益を生み出していく企業活動とも言える。

企業においては、社会全体の問題を解決しようと努力することで、事業継続に有効な面がある。顧客や取引先など、多くのステークホルダーから評価を受ける上、利益を出し続けることで長期的な事業に育て上げ、企業を支えることにつながるからだ。

そもそもCSRは、企業活動によって生じた社会に対するマイナスの影響を、軽減させることが狙いである。結果として、企業イメージや評判は向上するかもしれないが、必ずしも社会全体をよくするわけではない。そのため、CSRの発想を進展させ、社会貢献と利益の双方を追求する必要性が浮上していた。

厳しい財政状況や突然の大災害、政情不安などから、国家や政府の力が限定的になっている世界の現実もCSV推進の後押しになっている。そうした社会情勢からも、企業は社会問題の解決に向けて、ますます積極的に行動していくことが求められているのだ。

<展望>
特に東日本大震災では、企業が物資や義援金などを単に送るのではなく、長期間にわたる炊き出しや一手間かけた物資提供など、自らの事業に根ざし、成長を見込んだ被災地支援も行われた。これは、社会貢献という“コスト”に事業で稼いだ利益を回すといった考え方から、競争力を磨く投資の場として考えられるようになった現われの1つだろう。

また、CSVは本来企業に適用される概念ではあるが、個人の視点に置き換えた「パーソナルCSV」というコンセプトも、これから広がる可能性がある。具体的には、ニーズのある個人同士を結ぶ相互的なネット上のサービス。「お使い」のようなちょっとした用事を頼みたい人と請け負いたい人を結ぶといったものだ。

こうした動きやサービスは、ソーシャルメディアとも親近性が高く、相性がよいため、今後新たなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)として展開されることも考えられる。


【気になるマーケティング用語】ステルスマーケティング


<意味>
ステルスマーケティングとは、商品やサービスの提供者が消費者に対してそれと気づかれないように、購入を促す広告や宣伝を行うこと。代表的なやり方は、店舗や商品に対する良い評価を、金銭の授受を伴って組織的にWebサイトに書き込んだり、発信したりするもの。口コミで人づてに情報を伝えるバイラルマーケティングを悪用した手法だと言える。「ステマ」と省略した形で言われることも多い。

「ステルス」と呼ばれるのは、消費者にとって広告や宣伝には見えないためだ。英語の「Stealth」は、「隠れる」「内密」「人目を忍んだ」といった意味。もともと軍用機や戦闘車両などが、敵のレーダーに探知されないように考案された軍事技術の総称でもある。

<解説>
“やらせ”や“サクラ”と考えれば、古くからある宣伝手法であり、決して新しい考え方ではない。ただし、昨今ではインターネットなどの普及によって、ネットワーク環境が整備されているため、人前に出ることなく、低コストで大量の情報を拡散できるようになった点が、以前とは違っている。

ステルスマーケティングという言葉の通り、秘密裏に実行されているとしたら、広告や宣伝であると気づきにくく、消費者は知らないうちに影響を受け、購入に至っている場合も少なくない。

一方で、情報提供者側がステマの嫌疑をかけられると、「ステマ企業」「ステマ芸能人」などと、ソーシャルメディア上で話題にされたり、真相を追及しようとする動きが活発になったりと、社会的な騒動になることもある。

最近、世間をにぎわした例で言えば、2012年1月に発覚した「食べログ」の件がある。飲食店の口コミ情報サイトである「食べログ」に、店舗の依頼を受けて好意的な口コミを投稿する業者の存在が明らかになった。不正な投稿の見返りとして金銭を支払う行為が、厳しい非難にさらされたのである。

<課題>
現状では、著しい虚偽の記述内容などがなければ、ステルスマーケティング自体を取り締まる法律はなく、法的な抑止や規制は期待できない。そうした意味では、マーケティングを行う企業や、広告を掲載するメディアなどの倫理観や自主規制、チェック機能に頼らざるを得ない面がある。

法規制の対象外とはいえ、ある調査によればこの手法について、消費者の大半が高い嫌悪感を見せている。それゆえ、ステマを行っていることが一度露見すれば、その内容次第では、企業ブランドはおろか経営自体を大きく毀損する可能性も否定できないだろう。いくら売上や利益に効果があったとしても、マーケティング手法として、選ぶべき選択肢とは言えないのだ。

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【気になるマーケティング用語】キュレーション


<意味>
もともとの語源は、博物館や美術館の展示物を決定したり、展覧会の企画を立案する「キュレーター(curator:日本語訳では学芸員)」である。キュレーターの仕事から転じて、インターネット上などにあふれる膨大な情報を整理し、新たな意味づけなどを行い、多くの人と共有することをキュレーションと呼ぶようになった。

断片的な情報をある切り口で束ねたり、これまで有効活用していなかった情報を精査して、新たな意義を見出したりするため、キュレーションは「編集」と言い換えられるだろう。編集行為であることからも、人手で情報を収集、整理することが前提となっている。検索エンジンを使い、記事などを機械的に抽出して集約する場合は「アグリゲーション」と言い分けることもある。

<解説>
情報量が加速度的に増えているのはインターネットだけでなく、企業の社内データでも同様だ。最近では、企業内に保存されている大量の情報を再編集して、ビジネスにおいて新たな活用法を見いだす行為にも、この言葉が用いられるようになってきた。インターネット上の用語と区別し、「リアルキュレーション」という呼称が使われる場合もあるようだ。

具体的には、いわゆる“売れ筋”ではないロングテール商品にスポットライトを当てることで、認知度の低い商品の価値を改めて訴求するといったことや、従来は使ってこなかった既存のデータを再度整理、収集し直し、新たな営業や企画の提案に活用するといった例がある。

また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の分野では、気に入った画像をクリップして共有する「Pinterest」がキュレーション系と位置づけられる。このサービスは、他サイトへのトラフィック誘導率が高いSNSだという調査結果もあり、ソーシャルメディアにおけるマーケティング促進の起爆剤になるかもしれないとの期待も大きい。

<課題>
昨今、ビッグデータという観点からも、マーケティング活動での情報活用が盛んに叫ばれている。そこで一番のネックになっているのが、「大量の情報を誰が分析するのか」ということ。仮に、情報処理が専門であるITベンダーにデータ分析を依頼したとしても、どのような視点で、どうやって処理するかまで、すべてを任せられるわけではない。

データ分析を最適化するうえでは、ビッグデータを分析する人、キュレーションを行う人が、データ処理に強いのはもちろん、自社の業務やビジネスモデルを深く理解している人物であることが欠かせない。つまり、IT(情報処理)とビジネスのどちらにも長けた人材だ。特にリアルキュレーションを企業が実践するには、まず人材の発掘、育成が急務と言えるだろう。