中谷宇吉郎【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#102】


【4月11日】中谷宇吉郎:1900.7.4~1962.4.11

住みついてみると、北海道の冬は、夏よりもずっと風情がある。風がなくて雪の降る夜は、深閑として、物音もない。外は、どこもみな水鳥のうぶ毛のような新雪に、おおいつくされている。比重でいえば、百分の一くらい、空気ばかりといってもいいくらいの軽い雪である。どんな物音も、こういう雪のしとねに一度ふれると、すっぽりと吸われてしまう。耳をすませば、わずかに聞こえるものは、大空にさらさらとふれ合う雪の音くらいである。(「貝鍋の歌」)

『中谷宇吉郎随筆集』樋口敬二編、岩波文庫、19年88

【アタクシ的メモ】
北海道で暮らした夜、貝鍋やほっけを楽しんだ様子を書き綴ったようだ。引用の箇所はその冒頭。降雪によって音が吸収され、辺りが物静かになることを表現している。