相手を追い出すほどの妬みや嫌悪【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0070】


【短編小説】ルイーズ/トルーマン・カポーティ ◎
ルイーズに対するやや理不尽な嫉みから、エセルは彼女を退学へと追い込む。どうして嫌いという感情だけで、そこまでの行動をとるのだろうか。また、退学に至る理由に、人種差別的なものがあり、今読むとモヤモヤした感情が残る。書かれた当時の空気感はどうだったのだろう。

【詩・俳句・短歌・歌詞】ぼるぼろな駝鳥/高村光太郎 ○
動物園の駝鳥を読んだ詩のようだ。動物園に行けば、まとめて色々な動物が見られるから、人間にとっては好都合であるが、動物にとっては暮らしやすい環境ではきっとないだろう。筆者の言う通り、駝鳥らしくない駝鳥を見せていても、その意義はとても薄いと感じる。

【論考】身のほどについて/森本哲郎 △
現状に甘んじるわけでなければ、「身のほど」を知ることは大切だと思う。ただ、この論考自体は、イソップによる寓話の紹介、読み方の解説みたいになってしまったようで残念である。テーマや筆者の主張を明確にしたうえで、イソップの物語を活用したら、もっと違った展開になったと思う。


カント【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#043】


【2月12日】カント:1724.4.22~1804.2.12

それを考えることしばしばであり、かつ長きにおよぶにしたがい、つねに新たなるいやます感嘆と畏敬とをもって心を充たすものが二つある。わが上なる星しげき空とわが内なる道徳法則がそれである。二つながら、私はそれらを、暗黒あるいははるか境を絶したところに閉ざされたものとして、私の視覚の外にもとめたり、たんに推し測ったりするにはおよばない。それらのものは私の眼前に見え、私の存在の意識とじかにつながっている。

『実践理性批判 人倫の形而上学の基礎づけ』坂部恵・平田俊博・伊古田理訳(『カント全集』7、岩波書店、2000年)

【アタクシ的メモ】
まだきちんと解釈できているわけではないが、「わが上なる星しげき空とわが内なる道徳法則」は重要な一文だと思っている。翻訳でもヨイので、原典に当たらなければならないだろう。


デカルト【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#042】


【2月11日】デカルト:1596.3.31~1650.2.11

我々は幼年のとき、自分の理性を全面的に使用することもなく、むしろまず感覚的な事物について、さまざまな判断をしていたので、多くの先入見によって真の認識から妨げられている。これらの先入見から解放されるには、そのうちにほんの僅かでも不確かさの疑いがあるような、すべてのことについて、生涯に一度は疑う決意をする以外にないように思われる。(「人間認識の諸原理について」)

『哲学原理』桂寿一訳、岩波文庫、1964年

【アタクシ的メモ】
批判的精神というか、当たり前と思っていることも、まずは一度疑ってみることから始めようということか。デカルトの一文が、「我思うゆえに、我あり」でないことに驚き。


なぜ人は「なぜ」と言わなくなるのか【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0069】


【短編小説】知っていて知らない人/トルーマン・カポーティ  ◎
うたた寝から覚めると、死をもたらす人が目の前にいる。何とも不思議な話。ただカポーティは、直接的な説明はしない。その人物は、母親など身近な誰かが亡くなる日に、姿を現すという。死のキスを受けそうになったところで、ドアの音とともにその人物はいなくなってしまう。ミス・ナニーは悪い夢を見ていたのだろうか。その真偽も、全く語られない。

【詩・俳句・短歌・歌詞】なぜ/川崎洋 ◎
詩の中で様々な「なぜ」が問われるが、世界は不思議に満ちている。そして、その問いには簡単に答えることはできない。作者は最後に、「人はなぜ、なぜを言わなくなるのだろう」と問うが、それは、世界の不思議に解答しづらいためではないか。などと問わず、当り前と受け入れた方が生きやすいだろう。

【論考】永遠について/森本哲郎 ○
題名を見て、とても期待して読んだが、日本人は世の無常を受け入れ、永遠の絶対者を求めない、ということであった。筆者は、日本とインド、あるいは西洋などと比較し、日本人のメニタリティー、無常感を説明する。それについては、異論はないが、どうして日本人は無常に安住するのかを知りたかった。


「生ましめんかな」と命を捧げる【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0068】


【短編小説】沼地の恐怖/トルーマン・カポーティ ◎
ストーリーの最後を読むと、どうしてジェプとレミーは逃げた因人なんて探しに行ってしまったのだろうと思ってしまう。一人は命を落としてしまうし、もう一人はそれを目の前にして助けてあげられなかった。誰も救われない物語である。また、カポーティは、なぜこの短編小説を書こうと思ったのだろう。読み終わって、解けない2つのモヤモヤに包まれている。

【詩・俳句・短歌・歌詞】生ましめんかな/栗原貞子 ◎
命は継いでゆくものだと改めて思った。その命は、ある意味で、その人のものかもしれない。しかし、人は一人で生きているわけではなく、助け合いながら、年長者が幼き者を世話しながら暮らしている。原爆が落とされたばかりの時、地獄のような瞬間においても、「生しめんかな」と命を持げた人がいた。涙なしには読めない。

【論考】「中くらゐ」について/森本哲郎 △
一茶の言う「中くらゐ」というのは、ちょうどまんなかではなく、自分にふさわしい程度、分相応ということらしい。ただ、この言葉の真意よりも、むしろ一茶の知らなかった人生の方に興味がいってしまった。恵まれなかった若かった頃や苦労が多かった晩年など。そうした意味では、論考というより評伝に感じる。


プーシキン【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#041】


【2月10日】プーシキン:1799.6.6~1837.2.10

おもいでが 音もなく
ながい巻物をくりひろげる。
わたしは嫌悪のこころをもって
おれの生涯を読みかえし
身をおののかせ のろいの声をあげ
なげきつつ にがいなみだを流す。
けれども悲しい記録のかずかずは
もはや消し去るよしもない。

『プーシキン詩集』金子幸彦訳、岩波文庫、1968年

【アタクシ的メモ】
どうやら「思い出」という詩の一部のようだ。それにしても、「けれども悲しい記録のかずかずは/もはや消し去るよしもない。」という一文は、とても哀しみを帯びている。


禍いに満ちていても、その運命を抱きしめる【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0067】


【短編小説】火中の蛾/トルーマン・カポーティ
とても短いストーリー。そして、やはり哀しい物語。結局、命を落としてしまうセイディは、自業自得だったのか、エムの嘘が原因だったのか。因果関係は書かれていないため、読者それぞれが、自分なりに想像するしかない。唐突で急な終わり方含め、結論を読者にねるのがカポーティ流か。

【詩・俳句・短歌・歌詞】ゆずりは/河井酔茗
人類の歴史というか、人々が次世代に継承していく営みをゆずりはに例えている。自分自身も40歳をすぎたころから、生きるのは子どもたちや社会のため、と考えることが多くなっていた。だから、この詩のメッセージにとても共感できる。また、語りかける子どもたちにとって、押しつけがましくなっていない点もよかったと思う。

【論考】禍いについて/森本哲郎
なぜ人は禍いから逃れられないのか。禍いについての考察。「パンドラの箱」の話は知っているようで分かっていなかったので、改めてひも解いてもらってありがたかった。途中の論の進め方はやや強引な印象もあったが、筆者の結論である「一生がどんなに禍いに満ちていても、その運命を抱きしめるしかない」には同意。弱者の論理かもしれないが。


カンディンスキー【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#040】


【2月9日】カンディンスキー:1866.12.4~1944.12.13

バラ色、ライラック、黄色、白、青、浅緑の、真紅の家々や教会――それぞれが自分たちの歌を――風にざわめく緑の芝生、低いバスでつぶやく樹々、あるいは千々の声で歌う白雪、葉の落ちた樹々の枝のアレグレット、それに無骨で無口なクレムリンの赤い壁の環。……このときを色彩で描くことこそ、芸術家にとって至難の、だが至上の幸福である、とわたしは考えたものである。

『カディンスキーの回想』西田秀穂訳、美術出版社、1979年

【アタクシ的メモ】
ワシリー・カンディンスキーは、抽象絵画の創始者とのこと。様々な色を「自分たちの歌」にたとえるところが、とても画家らしく感じる。


If I Forget You【ブラッドベリ1000日チャレンジ#0066】


【短編小説】もし忘れたら/トルーマン・カポーティ
子供の恋、不釣り合いな恋、もしかすると一方的な恋。そんな恋愛感情に夢見心地な少女のストーリー。彼女の感情しか語られておらず、内なる熱さは感じるものの、彼女の周囲はとても冷めているように見える。彼女と彼女以外のギャップが大きいのだろうが、彼女は内に残ったまま急に話が終わってしまった。明日からの彼女が心配である。

【詩・俳句・短歌・歌詞】世界は一冊の本/長田弘
何だか理解できるようで、一筋縄でいかない詩だった。「世界というのは開かれた本で、/その本は見えない言葉で書かれている。」と言われると、世界にあるすべての存在を本にたとえているのだろうか。「本を読もう。」とは、すべての存在に興味を持とうということなのだろうか。

【論考】青春について/森本哲郎
私が「自分」というものに気づいたのは、もしかすると他の人より早かったのかもしれない。一方で、ここで書かれている「春の嵐」のようなものもなかったように思う。あくまで自覚、自認の話なので客観性に乏しいが、変な人格形成だったのだろうか。そうした意味でも、読んでいてあまりピンとこなかった。


シュンペーター【『一日一文 英知のことば』から学ぶ#039】


【2月8日】シュンペーター:1883.2.8~1950.1.8

社会主義が正統派社会主義者達の夢見ている文明の出現を意味すると信ずべき理由は殆どない。ファシストの特徴が現れる可能性の方がむしろ大きい。それはマルクスの念仏を唱える人々にとっては予想外の解答であるに相違ない。けれども歴史は時々たちの悪い戯れに耽るものなのである。

『資本主義・社会主義・民主主義』下巻、中山伊知郎・東畑精一訳、東洋経済新報社、1951年

【アタクシ的メモ】
社会主義はそもそも、その理念を実現させるのではなく、全体主義や独裁者を生みやすいという。もしそれが本当なら、「歴史の悪い戯れ」というよりも、人間が持つ必然性なのではないか。